2020年3月7日土曜日


牧師の日記から(256)「最近読んだ本の紹介」

和田誠『装丁物語』(中公文庫)先頃亡くなったイラストレーター和田誠さんが装丁した書物を自ら解説している。いかにも和田さん好みの本のオンパレード。谷川俊太郎や丸谷才一など、私の愛読書の装丁が次々に紹介されていて楽しい。中に一冊だけキリスト教関係の本があった。徳永五郎牧師が1985年に教団出版局から刊行した『その人をその人として』。和田さんの子どもたちを通わせていた幼稚園の園長が徳永牧師だった。211日が「国民の祝日」に制定されたとき、紀元節復活に反対して徳永園長は幼稚園を休園にせず、その旨を保護者に知らせた。それに反発する保護者もいたが、和田さんはこういう手紙を書いて励ましたという。「ぼく自身の事務所はその日休みます。ですから先生と共闘しようというわけじゃありません。しかしいい幼稚園だと思ってあなたの幼稚園を選び、子どもを通わせています。その園長先生が正しいと思ってやっていることに従いたいと思います。反対意見も多いようですが、頑張ってください。」この手紙がきっかけで、この本の装丁を引き受けたという。

中村哲『アフガニスタンの診療所から』(ちくま文庫)昨年暮れにアフガニスタンで銃殺された中村哲さんが書いた比較的初期の報告。単行本で読んでいるはずだが、本屋の片隅に少し変色した文庫版を見つけたので読み直した。当初、JOCS(キリスト教海外医療協力会)から派遣されてアフガニスタンのハンセン病療養所に赴任した当時の活動が紹介されている。最後に紹介されているNGOの先輩にあたる中田正一さんのエピソードが印象的だった。三人の若者が吹雪の山で遭難した。一人が具合が悪くなり、最も体力のある一人が救援を求めに行く。もう一人はやむなく倒れた病人を背負ってトボトボと歩き、救助隊に助けられる。しかし救援を求めに先行した体力のある若者は雪道で凍死していた。助けられた一人は悟る。「僕は病人を助けるつもりで歩いていたが、実は背負った彼の温もりで温められ、自分も凍えずに助かったのだ。」つまり、アジアの貧しい人々を助けるつもりが、実はこちらが助けられているのだ。共に生きることによって、初めて難民支援が成立することを示唆している。

宮下規久朗『カラヴァッジョ「聖マタイの召命」』(ちくまプリマー新書)カラヴァッジョの絵は、不思議な迫力と魅力に満ちている。しかし美術史では長らく取り上げられて来なかった。この画家は度々乱闘を起こし、殺人罪で死刑判決を受けて投獄され、脱獄して逃亡し、最後は38歳で野垂れ死に近い死を遂げている。その素行の悪さ?が災いしたのだろうか。しかし代表作『聖マタイの召命』を初め、聖書に題材を取った「ラザロの復活」や「聖パウロの回心」「聖ペトロの磔刑」など、驚くべき写実性と闇の中に差し込む光が印象的。著者によると、この絵は同時代の画家たちに絶大な影響を与え、それはイタリアだけではなく、遠くオランダのレンブラントにも及んでいるというのだ。改めてカラヴァッジョの絵画の革新性に気づかされた。(戒能信生)

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