2020年3月21日土曜日


牧師の日記から(258)「最近読んだ本の紹介」

牛見信夫・他『五人の教師 抵抗の群像』(ひまわり出版)法政大学の高柳俊男教授から頂いて目を通した。1970年代に刊行された日教組の古参の教員たちの学校現場における闘いと抵抗の記録。実は、戦前の朝鮮での日本人キリスト者の記録を、朝鮮史が専門の高柳さんに探してもらっていたのだ。台湾や満州における日本人キリスト者の足跡は、資料や証言も比較的多く残されているが、不思議なことに朝鮮の邦人教会や日本人キリスト者の動向についての資料はほとんど見ないのだ。この本の最初に出てくる牛見信夫さんは、1913年生まれで、山口師範を出た後、1938年に朝鮮の小学校教員として赴任。学生時代から矢内原忠雄の影響を受けた無教会のクリスチャンであった。植民地下の朝鮮で25歳で校長になるが、「良心の平安」を求めて校長を辞し、農業学校の一教員になっている。引揚げ後は、郷里の山口で日教組の闘士として不当配転に抵抗して闘った人。

小梅けいと『戦争は女の顔をしていない』(KADOKAWAノーベル文学賞作家のスヴェトラ-ナ・アレクシェーヴィチの原作を、漫画化した作品。原作は、独ソ戦に従軍した女性たちの聞き書きだが、私もその一部に目を通したものの全部を読み切ってはいない。まさかこの長大なノンフィクションが漫画化されるとは予想もしなかった。第二次世界大戦の際、ソ連では100万人を越える女性たちが従軍したという。原理的に性差を認めない社会主義思想がその基本にあったという。看護兵や通信兵、洗濯部隊だけでなく、狙撃兵や機関士、飛行士に至るまで、最前線の実戦部隊にも女性兵士たちが投入された。しかもその多くが志願兵だった。極寒の地での戦争の実態が、女性たちにどのような苦難と苦痛を強いたのかが生々しく証言されている。ただ、500人を越える証言は、断片的で短いものが多く、風景や状況描写などは削ぎ落とされている。この漫画化では、それぞれの証言が画として再現されており、見事な作品になっていて感嘆した。

上野千鶴子・田房永子『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください』(大和書房)田房永子はエッセー漫画家で、母親の過干渉とそこからの自立を描いた作品『母がしんどい』がデビュー作。しかしいわゆるフェミニズムの思想やその歴史についてはほとんど知らない。その彼女を聞き手として、上野千鶴子がフェミニズムの歴史から、その思想や論争の経緯を、楽しく?分かりやすく語った対談集。これが出色の出来で、肩のこわばりが取れ、性にまつわる様々な事情と現実が次々に暴かれていく。教えられたこと、気づかされたこと、そして考えさせられることが満載ではあった。
青柳碧人『むかしむかしあるとこに、死体がありました』(双葉社)よく知られた日本昔話を題材にしたミステリー。荒唐無稽ではあるが、「一寸法師」や「花咲か爺」「鶴の恩返し」「浦島太郎」「桃太郎の鬼退治」などをミステリーに仕立て直すという着想に意表を突かれた。ただその出来映えは、率直に言って後味がよくない。もうちょっと工夫がありそうなものだが。(戒能信生)

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