2020年3月28日土曜日


牧師の日記から(259)「最近読んだ本の紹介」

古川隆久『建国神話の社会史 史実と虚偽の境界』(中央公論社)天照大神の孫(伊邪那岐と伊邪那美)が高天原から降臨して大八島(日本列島)を生み出し云々という建国神話が、明治以降の教育現場で実際にどのように教えられ、それはどのような社会的影響力をもったかを、資料に基づいて丹念に分析している。明治期以降、学会のみならず、一般社会でもそれは神話として受け止められていた。ところが特に教育勅語以降、文部省の指導によって学校現場でそれが史実として教えられるようになる。教師たちの実践報告によれば、「そんなの嘘だっぺ!」と反応する児童をいかに納得させるかで苦労する悲喜劇が繰り返されたという。私自身は戦後の生まれなので、天孫降臨神話を全く教えられていない。しかし最近採択されるようになった『新しい歴史教科書』には建国神話が復活し、例の森友学園では幼児たちに教育勅語を暗誦させている。先頃の大嘗祭では「三種の神器」が恭しく登場した。「以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」は、戦時下の日本基督教団規則にまで入り込んでいたことを想い出した。

弓削達『地中海世界 ギリシア・ローマの歴史』(講談社学術文庫)ローマ史研究者の著者が、ギリシア文明からローマ帝国へと地中海世界の歴史をつないで書いた概説。ミケーネ文明に始まり、アテネやスパルタなどのポリスの興亡、その共同体の特質、そしてアレキサンダー帝国を経て、ローマが地中海世界の覇権を握る。五賢帝時代の「ローマの平和」と帝国の支配イデオロギーの分析、そして帝国の衰退へと、膨大な歴史を簡潔に整理してくれる。最後に、キリスト教の勝利?とローマ帝国没落の原因論の趨勢に触れている。大変参考になった。

NHK「ETV特集」取材班『証言 治安維持法 検挙者10万人の記録が明かす真実』(NHK出版新書)1925年に革命思想の取り締りを目的として制定された治安維持法が、その後改訂され、さらに戦時下における恣意的な運用によって拡大解釈されていった経緯を、証言と資料からたどる。14歳の少女が検束されていたという驚くべき事例などが次々に紹介されている。特に印象的だったのは、学校現場で多数の教師たちが逮捕され、拷問に近い取り調べを受けて転向させられていった事実。これらの教師たちが負った傷は深い。しかもこの治安維持法によって有罪とされた人々の名誉回復や復権は一切なされていない。そして新たに秘密保護法や共謀罪などが制定されている。治安維持法によって戦時下のホーリネス弾圧やキリスト教諸派への弾圧が繰り返されたことを忘れてはならない。

石ノ森章太郎『漫画超進化論』(河出文庫)手塚治虫から始まる戦後マンガの歴史を、中心的に担った手塚や石ノ森、藤子不二雄Ⓐ、さいとうたかをといった面々が対談形式で振り返っている。私自身もマンガ世代なので、懐かしく読んだ。この中でも紹介されているが、『あしたのジョー』で有名なちばてつやさんは、以前私が責任を負っていた東駒形教会の教会員だった。それで、東駒形教会90周年の際、記念講演に来てくれたこともある。(戒能信生)

0 件のコメント:

コメントを投稿