2020年6月20日土曜日


牧師の日記から(271)「最近読んだ本の紹介」
今野元『マックス・ヴェーバー 主体的人間の悲喜劇』(岩波新書)、野口雅弘『マックス・ウェーバー 近代と格闘した思想家』(中公新書)この5月末に相次いでマックス・ヴェーバーについての新書が出版された。この二冊を、岩波新書は寝室で、中公新書は書斎で読んだ。私は何冊かの本を同時並行して読むのが習慣になっている。しかし同じ思想家を取り上げた本を、同時に読むのは珍しい経験だった。ヴェーバーについては、主著とされる『プロ倫』や『古代ユダヤ教』などを大塚久雄や内田芳明の翻訳を通して、苦労して学んで来た。「マルクスとヴェーバー」という研究書があるくらいで、戦後日本において、ヴェーバーはマルクスとの関連や対決という仕方で取り上げられてきたと言える。しかし、この二つの新書の著者たちは、いずれも50歳前後で、第三世代のヴェーバー研究者。ドイツ語版新全集に収録された書簡や草稿など、ヴェーバーの周辺状況に関する豊富な資料を用いて、ヴェーバーの生身の姿、その実際の言動や振る舞いが赤裸々にされている。すると、これまで言わば理想化されたヴェーバー像が解体され、矛盾に満ちた、そして闘争本能丸出しの実像が浮かび上がってくる。この二冊の新書は、そのような最近の研究状況を踏まえて、徒にヴェーバーを理想化するのではなく、課題を整理しながら再評価をしているところが興味深かった。
對馬達雄『ヒトラーに抵抗した人々 反ナチ市民の勇気とは何か』(中公新書)ヒトラー政権は、当時のドイツ国民の圧倒的な支持を受けていた。その中で、国防軍内にクーデターやヒトラー暗殺計画があったことは知られている。しかし一般の市民の中にも広範な抵抗運動が存在した。そのほとんどがゲシュタポに摘発されて処刑されているが、これらの市民的抵抗者たちを取り上げて紹介している。以前にもこの欄で触れたが、故・雨宮栄一牧師の書斎から『反ナチ抵抗運動とモルトケ伯』の草稿が見つかり、それを私が整理して新教出版社から刊行の準備をしている。しかしここまで原稿が出来ていて何故完成しなかったのか一つの謎だった。本書は雨宮先生の書斎で見つけたのだが、特にモルトケ伯たちのクライザウ・サークルの活動が簡潔に紹介されている。201511月に初版が出て、雨宮先生が手に取ったのは2017年の第3版である。ちょうど、モルトケ伯の伝記の原稿をほぼ書き上げた時期と重なる。つまり、これまでこの国でほとんど知られていなかったモルトケ伯やクライザウ・サークルについて、本書にある程度まで紹介されていることを知って、完成稿に至らなかったのではないかと推測される。
南伸坊『ねこはい』(角川文庫)南伸坊が、猫の気持ちになって詠んだ俳句に独特のイラストを添えた一冊。著者ならではのユーモアがあり、楽しく読んだ。教会周辺に出没する野良猫たちの生態がそこにはある。(戒能信生)

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