2020年7月18日土曜日


牧師の日記から(275)「最近読んだ本の紹介」
パオロ・ジョルダーノ『コロナの時代の僕ら』(早川書房)著者はイタリアの素粒子物理学者で、『素数たちの孤独』で文壇デビューした若き文学者。CIVID-19 が蔓延する最中に発信したエッセー集。この間のイタリア政府やマスコミの対応に、冷静なしかし厳しい眼を向ける。そしてこの地球規模のパンデミックの経験を「忘れないようにしよう」と呼びかける。「僕らの文明は地球規模でレントゲンにかけられている」という。そして「そもそもの原因は、自然と環境に対する人間の危うい接し方、森林破壊、僕らの軽率な消費活動にこそある」と指摘している。著者は問いかける、「すべては終わった時、本当に僕たちは依然と全く同じ世界を再現したいのだろうか」と。今私自身は、100年前のスペイン・インフルエンザの際のキリスト教会の対応を調べているのだが、この国だけで45万人が死んだ悲惨な出来事を、世界もそして教会も素早く忘れてしまった。それを繰り返してはならない。これは地球からの人類に対する警告なのだから。
瀬名英明他、NHK取材班『ウィルスvs人類』(文春新書)NHKBSで放送された2本の番組を新書に再現したもの。ウィルス学や疫学、生態学、さらに感染症治療の専門家たちが、現在判明している科学的な事実、そして分かっていない課題を率直に話し合っている。ワクチンと治療薬の開発が急がれているが、その危険性についても指摘されている。司会役を担った瀬名さんも、最後にこう書いている。「皮肉なことに人類が排出する二酸化炭素の量はコロナ危機で激減したが、地球温暖化の非常事態は今も続いている。リーマンショックの後のように、経済回復を第一として、リバウンドさせるのではなく、脱炭素経済に生まれ変わらせる好機と捉え、パラダイムシフトを加速させるべきだ。私たちは、自然からの警告を真摯に受け止め、行動に移していかなければならない。」
小山俊樹『五・一五事件』(中公新書)4年後に起こった226事件と比べると、海軍青年将校たちが蹶起して犬養毅首相を殺害したこの事件は、印象が薄い。しかもその首謀者たちは、世論の同情もあって、いずれも減刑され、一人も死刑にはならず、数年後に釈放されている。しかし結果として政党内閣は崩壊し、軍部の台頭が続き、やがて大東亜戦争へと続く。その経緯と背景を明らかにしている。
高野秀行『謎のアジア納豆』(新潮文庫)多くの日本人が納豆は日本独特の発酵食品だと思い込んでいる。ところがタイ、ミャンマー、ネパール、中国西南部の山地民族の間に、確かに納豆文化圏があることを実際に踏査し、食し、作ってみる経験を通して確証している。米作文化に押しやられてしまった大豆の発酵文化が今も各地に存在しているという。著者は早稲田大学冒険部出身のノンフィクション作家。私自身は関西出身であまり納豆に馴染みがなく、朝食もトーストとシリアルなのだが、これを読んで、俄然納豆が食べたくなった。(戒能信生)

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