2020年12月12日土曜日

 

牧師の日記から(296)「最近読んだ本の紹介」

小松栄三郎『小さき群れなれど』(勝どき書房)条谷泉さんから頂いて一読した。最初期の日本聖公会の司祭・飯田栄次郎の伝記。幕末期、小録の御家人の次男に生れ、幕府の陸軍講義所でフランス式軍事訓練を受け、明治政府の鎮台附教官として陸軍少尉に任官するが、西南戦争に従軍する直前にキリスト教に触れて退官し、生涯を伝道に尽くした人。様々な困難と迫害の中で、成田の近くの農村に現在も続く日本聖公会福田教会を創立した。「汝の敵を愛せよ」という聖句に打たれて回心したという。陸軍講義所時代に勝海舟と交流があったようで、聖句を書いた海舟の書がこの教会に伝えられているという。勝海舟がクリスチャンになったかどうかは議論のあるところだが、宣教師との交流などの事情にも触れられている。

三浦綾子『われ弱ければ 矢嶋楫子伝』(小学館)女子学院の初代校長を務め、長きにわたって基督教婦人矯風会の会頭を担い、明治期の代表的な女性キリスト者であった矢嶋楫子のことを調べている。私の日本キリスト教史の授業で取り上げる人物が男性に偏っているので(圧倒的な資料不足がその理由)、女性のキリスト者たちを取り上げたいと以前から考えていた。そこでこの人の資料を探し始めたのだが、三浦綾子の小説が示すように、矢嶋楫子の人となりを示すエピソードは様々に伝えられているが、その信仰理解を示す資料が限られるのが悩み。ただ楫子は、新島襄よりも10歳年長で、明治期のキリスト教界の最長老の一人だった。徳富蘇峰・蘆花兄弟の叔母に当たり、その入信の経緯や教育者として、また女性運動家としての歩みが興味深いのだが…。

『岡村民子著作集Ⅰ、Ⅱ』(新教出版社)同じく、女性神学者として「聖書聖典論」を展開し、婦人会連合の聖書研究に甚大な影響を与えた岡村民子についても調べている。ところが、この人の個人史的な事情が全く判らないので困っている。渡辺善太の薫陶を受け、この国の女性神学者としては随一の人なのだが、生涯独身であったこともあり、身辺のことが全く知られていないのだ。時間をかけてじっくり調べていこうと考えている。

ベネディクト・セール『キリスト教会史100の日付』(白水社文庫クセジュ)キリスト教史の中から、100の項目を取り上げて、その年代順に解説しくれる。連綿と続く教会史の叙述ではなく、いわば2000年の歴史から100のトピックを選ぶと、歴史の流れが俄然立ち上がる感がある。著者はフランスの中世史研究者なので、カトリックの視点を学ぶことができる。

マイケル・コナリー『素晴らしき世界 上下』(講談社文庫)私が読んできたミステリーで、まだ作者が現役なのはこの人くらいしかいない。「刑事ボッシュ」シリーズの最新刊で、警察を退職した主人公が、若い女性刑事とコンビを組んで未解決事件に取り組む新しいシリーズの一冊。年をとって身体のあちこちにガタがきたロートルの元刑事の活躍に、自分を重ね合わせて楽しみながら読んだ。(戒能信生)

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