2020年12月19日土曜日

 

牧師の日記から(297)「最近読んだ本の紹介」

徐正敏『日韓関係論草稿 ふたつの国の溝を埋めるために』(朝日撰書)著者の徐正敏さんは、明治学院大学の教員で、1956年生まれの日韓キリスト教史の研究者。昨年出版された『協力と抵抗の内面史』の共同研究者だった。朝日新聞の言論サイト『論座』に連載したエッセーをまとめたもので、著者より贈呈されて一読した。副題に示されるように、歴史的に最も冷え込んでいるとされる日韓関係の「溝を埋めるために」、歴史的な史実や著者が経験した様々なエピソードを紹介している。例えば100年前の三・一独立宣言に、「日本を責める論調」がないことや、徹底した非暴力抵抗運動だったという指摘は改めて考えさせられた。

蔭山宏『カール・シュミット』(中公新書)ナチス・ドイツのイデオローグとして知られる政治学者カール・シュミットの再評価については、キリスト教神学との関連でもしばしば取り上げられる。タウベスの『パウロ神学』の中でもシュミットとの不思議な対話が出てくるし、丸山眞男が「最も尊敬する敵」としたとも言われている。政治思想に対する前提が私に備わってないためだろうか、本書を読む限りでは、どうもよく分らないというのが率直な感想。前期シュミットと後期シュミットを分けて考える向きもあるようだが、その後半生は結局は自己弁明と自己正当化に終始したとしか私には思えなかった。どうしてシュミットが「マックス・ヴェーバー以降の最大の政治思想家」と言われるのか謎としか言いようがない。

松本宣郎『キリスト教徒大迫害の研究』(南窓社)ローマ史・キリスト教史の研究で知られる著者の学問的な著作で、7,200円もする専門書。教会の印刷室で見つけて目を通した。見返しに寄贈者として「熊谷裕子」とある。たまたま川島貞雄先生が訳したシュタウファーの『キリスト教とローマ皇帝たち』を読んでいるので関連を調べてみた。しかしこの本にはシュタウファーの著作は取り上げられていないようだ。ところで以前から不思議に思っていたのだが、この国の優れたローマ史研究者の中には、秀村欣二、土井正興、弓削達、そして松本宣郎とキリスト者が多い。

島薗進『新宗教を問う 近代日本人と救いの信仰』(ちくま新書)著者は日本宗教学のトップランナーで、私もこの人の著作から多くを学んで来た。この新書は小さな書物だが、新宗教をめぐる著者の多岐にわたる研究を集大成したような内容で、私自身の「日本宗教史」の講義に大いに参考になる。ことに、オウム真理教以降の新宗教をめぐる状況を取り扱った最後の部分で、スピリチュアリティー(霊性)ヘの流れを取り上げている。そこでは、水俣病患者の一人の女性の証言を通して、「救済」に代わる新しい霊性のサンプルを提示していると言える。それは、もはや宗教の枠を越える新しい宗教の可能性をイメージしているようだ。因みに、高倉徳太郎が晩年入院していた東大病院島薗内科は、著者の祖父島薗順次郎のことだそうだ。昨年島薗さんの講演を聞いたとき、直接確認した。(戒能信生)

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