2020年12月26日土曜日

 

牧師の日記から(298)「最近読んだ本の紹介」

五十旗頭真ほか編『岡本行夫 現場主義を貫いた外交官』(朝日文庫)梅本和義さんから頂いて一読した。テレビなどで外交評論家として知られる岡本さんは、この4月にコロナ・ウィルスに感染して急逝した。その岡本さんの外交官時代の仕事ぶりや、退官後の多面的な活動が生き生きと語られている。この人ならではの現場主義に立って、沖縄問題や東日本大震災の救援活動等に幅広く関わっていたことを知ることが出来る。また橋本政権や小泉政権の首相補佐官として活躍した当時の裏話や、特に沖縄の普天間基地移設計画から辺野古沖埋立てに到る経緯、その中での秘録とも言うべきエピソードを驚きながら読まされた。梅本さんご夫妻の結婚の媒酌人で、梅本さん自身もかつての上司への短い追悼文を寄稿している。

青野太潮『どう読むか、新約聖書』(YOBEL新書)著者の青野さんから贈呈されて目を通した。数年前、神学生交流プログラムの講師としてお招きし、その「十字架の神学」解釈を三日間にわたって詳細に伺ったことがある。それは今年刊行された『次世代への提言』に収録されている。本書は私も講師を務めていた東京バプテスト神学校での4日間に渡る集中講義をまとめたもので、分かりやすく青野神学に触れることが出来る。特に興味深かったのは、2章「処女降誕物語をどう読むか」で、神話化されたクリスマス物語を「十字架の逆説」として読み替える視点に改めて学ばされた。

武田武長『ただ一つの契約の弧のもとで』(新教出版社)これも著者から贈呈された。『時の徴』の編集同人でもある武田さんは、ユダヤ人問題、特にキリスト教の歴史に深く刻み込まれている反ユダヤ主義を神学的に抉り出し、特にロマ書の釈義を通してその誤謬を徹底して見直している。この国ではユダヤ人問題はあまり議論されないが、欧米では今なお深刻な課題である。例えば私自身、特に説教の中で、無意識のうちにアンチ・セミティズム的な解釈や表現に陥っていることに気づかされる。武田さんの博士論文をもとにした論文集で、言わばライフ・ワークの書籍化でもある。

岡田暁生「モーツアルト」(ちくまプリマー新書)天才モーツアルトについては興味深い様々なエピソードが伝えられている。しかしこの小さな本は、この天才の生涯を簡略に素描しながら、例えば「モーツアルトは神を信じていたか?」というような問いを立てて、新しい視点から論じていて興味深く読んだ。ただこの天才の思想的な背景、キリスト教への理解やフリーメーソンとの関わりなどを、主にそのオペラ解釈を通して試みている。私はオペラについての素養が全くなく、「ドン・ジョバンニ」にしても「魔笛」にしても、あまり丁寧に聴いていない。そもそもオペラは別の脚本家がいる。そのオペラ脚本の思想と表現を、作曲家の思想として取り上げるのはどうなのだろうと疑問を抱きもした。しかしこの書物を道案内に、書斎のオーディオで久しぶりに「レクイエム」や「ジュピター」などを聴き直してみた。(戒能信生)

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