2021年1月16日土曜日

 

牧師の日記から(301)「最近読んだ本の紹介」

中野耕太郎『20世紀アメリカの夢』(岩波新書)トランプ大統領の断末魔のニュースを見ながら、この人を大統領に選んだツケを払わされている感じがする。しかし何故こんな人物が大統領に選ばれたのか、今回落選したとは言え選挙人の半数近い熱狂的支持を受けているのは何故かを改めて考えさせられる。それで岩波新書のシリーズ「アメリカ合衆国③」の本書を読んでみた。20世紀初頭から1970年代までのアメリカ社会の変遷を辿っているが、そこには理想主義的で民主主義の擁護者としての顔と、反動的で帝国主義的な顔の二つの相貌があることに気付かされる。戦後の日本社会に対しては(沖縄を除いて)、アメリカは言わば解放者としてのリベラルな顔を見せ、他方で例えば中南米諸国に対してはアメリカ至上主義的で強権的な姿をむき出しにしている。この二つの矛盾するアメリカが、今や露わにされたと言える。以前、ニカラグアのカトリック・シスターから「あなたのアメリカ観は間違っている」と指摘されたことを思い出す。

松山創『紀水 松山常次郎』(松籟社)年末に著者から贈呈されて一読した。戦前、クリスチャン代議士として活躍した松山常次郎の伝記で、特に親族の立場から書かれたもの。松山常次郎は、霊南坂教会の篤実な信徒で、戦時下の日本基督教団の指導者だった。有名な日本画家・平山郁夫の岳父でもある。海軍政務次官を務めたこともあって、教団東亜局に政府から補助金?を引き出した立役者でもある。若き日のキリスト教との出会いや、アメリカ留学の事情、土木技術者として朝鮮の治水工事に携ったことなど初めて知ることばかり。巻末に帝国議会における活動が詳細に記録されていて、その政治活動やキリスト者としての働きを知ることが出来る。

森田洋之『日本の医療の不都合な真実』(幻冬舎新書)副題には「コロナ禍で見えた世界最高レベルの医療の裏側」とある。国民皆保険制度に守られた日本の医療の特徴や問題点が分かりやすく示される。人口当たりでは世界で最もベッド数が多く、CTMRI等の先進的な医療器具も完備されているこの国の医療の問題点が明らかにされる。以前、キリスト教医療法人の評議員をしていた際、日本医師会は開業医が中心で、政府自民党と結びついてこの国の医療を歪めている実態を指摘されたことがあるが、その改革は容易ではないようだ。著者は破綻した夕張市の医療再建に関わった経験から、プライマリー・ケア(ホームドクター制度)の充実や地域医療への具体的な提言をしており、きわめて説得的だった。

江口圭一『15年戦争小史』(ちくま学芸文庫)1931年の柳条湖事件から始まる15年戦争の実態を平易に解説してくれる。大学の授業で一年間、24回分の講義をまとめたもので、この国が戦争へとなだれ込んでいった経緯が分かりやすく解説されている。各種統計や組織の変遷図なども添えられていて、教科書として用いることが出来る。とりわけ昭和天皇の戦争責任について、具体的に指摘されていて学ばされた。(戒能信生)

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