2021年1月23日土曜日

 

牧師の日記から(302)「最近読んだ本の紹介」

宮田光雄『日本キリスト教思想史研究』(創文社)橋本茂さんを通して、著者からプレゼントされた。『宮田光雄思想史論集』の一冊だが、高価(8000円)で手が出ず買えなかったのだ。ドイツの学会や研究書などで発表した日本キリスト教思想の紹介が中心だが、政治思想史が専門の宮田先生ならではの分析が大変参考になる。創文社が解散するというので、在庫を引き取って分けて下さったのだ。特に内村鑑三を中心とする無教会運動の分析や天皇制ファシズムの捉え方に学ばされた。私自身の日本キリスト教史研究においても必読文献になる。

和田光弘『植民地から建国へ』(岩波新書)シリーズ「アメリカ合衆国の」一冊目。アメリカ大陸の発見?から、初期の入植(メイフラワ-伝説)をめぐる建国神話、そして独立戦争前後が取り上げられている。つくづくアメリカという国の特質というか独自性を考えさせられる。なにせ、フロリダをスペインから、テキサスをメキシコから、ルイジアナをフランスから、そしてアラスカをロシアから有償で購入しているのだ。こんな国は他にない。これまで様々な仕方で読んできた建国神話が紹介された上で、その後の研究によって神話が解体されていくのに驚かされる。しかし何より、建国当初からの先住民(ネイティブ・インディアン)に対する虐殺や迫害、アフリカから大量に運ばれてきた黒人奴隷の問題が、当初からこの国に深く刻印されている事実を改めて考えさせられる。

伊原幹治『田中遵聖とアサ会事件』(自費出版)田中遵聖とは、戦前の呉バプテスト教会の牧師で、独自のカリスマ運動を始めた人物。作家の田中小実昌はその息子で、この父親について『アメン父』『ポロポロ』などの小説を書いている。若き日にアメリカに渡り、労働者として苦労する中でユニテリアンの信仰に出会って入信。帰国後、西部バプテスト教会の牧師になるが、自らの信仰を解体し、神の恩寵と聖霊の働きにすべてを委ねる信仰理解を実践して周囲の人々に大きな影響を与えた。しかしその型破りの信仰と異言、聖霊体験の故に、宣教師団から忌避されてバプテスト教会を追われる。しかし田中を中心とするアサ会運動は深く教会内部に浸透しており、その影響を受けた少なからぬ牧師、神学生、信徒たちが教会を追放されている。最近、この田中遵聖についての再評価の機運が高まっている。著者は、長年西南学院中高の教師を務め、定年で校長を退任した後、西南学院神学部に入り、当時の第一次資料からアサ会運動の実態を掘り起こして、卒業論文としてこれを書いたという。

岡田温司『西洋美術のレイシズム』(ちくまプリマ-新書)西洋美術というよりもキリスト教絵画の中にある人種主義が具体的に取り上げられる。聖書を題材にした絵画に、それが多く見られるという。創世記のノアやアブラハムを取り上げた絵画に見られる黒人やアラブ人に対する描き分けに、根深いレイシズムの原型を具体的に指摘している。(戒能信生)

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