2021年2月13日土曜日

 

牧師の日記から(305)「最近読んだ本の紹介」

増田義郎『アステカとインカ 黄金帝国の滅亡』(講談社学術文庫)コロンブスによってアメリカ大陸が「発見?」されてから、主にスペインからの冒険者たちによって中南米の各地が占領されていく。コルテスによってメキシコ高原のアステカ文明が、またピサロによってインカ帝国が滅ぼされた全過程が詳述される。従来は占領者・支配者側からの資料に基づいて書かれることが多かったが、出来る限り被支配者の側の証言や資料も取り入れてその全貌を明らかにしている。それにしても、それは残酷な、そして暴力に満ちたものだった。300万人はいたというインカの人々が現在では200人くらいしか残っていないというのだ。その背後にスペイン人たちの黄金に対する欲望と、キリスト教信仰があったという。著者自身が推進した『大航海時代叢書』(全42巻、岩波書店)を駆使した内容で、この残酷な占領史と現代がひと繋ぎになっている現実に唖然とさせられる。銃器等の武器の違いがあったにせよ、ほんの僅かのスペイン兵たちにインカ帝国が滅ぼされた背景には、天然痘を初めとするヨーロッパから持ち込まれた感染症の拡大があったという。このことも忘れてはならないだろう。

梁英聖『レイシズムとは何か』(ちくま新書)この国における在日コリアンに対する差別の歴史と実態を、レイシズム(人種差別)の視点から明らかにしていて、多くを学ばされた。日本には「単一民族神話」があり、人種差別はないとされてきた。しかしアイヌ民族や沖縄人差別は厳然として存在するし、また在日朝鮮人・韓国人に対する差別も依然として根強く残っている。一つには、この国で差別と言えば「部落差別」問題が取り上げられることが多く、反差別教育も熱心に展開されてきたことがあるのかもしれない。その点で本書が部落差別との関連や差異について全く取り上げられていないことに不満が残った。

貴堂嘉之『南北戦争の時代』(岩波新書)「シリーズ・アメリカ合衆国」の二冊目。南北戦争がどれほど大きな被害と、そしてその後に深刻な影響を及ぼしたかを改めて教えられた。なにしろ50万人が戦死し、それは第二次世界大戦の米軍戦死者よりも多かったという。因みに、この国には主にアメリカ合衆国の宣教師によってプロテスタント・キリスト教が伝えられたが、その場合、神学校が東西に二つ造られている。例えばメソジスト教会で言えば、東の青山学院と西の関西学院、日本基督教会では、明治学院と神戸神学校、バプテスト教会では、関東学院と西南学院というように。つまり戦前のアメリカ経由の各教派は、いずれも東部と西部に分かれ、それで各神学校も東と西に二つあった。それはすべて南北戦争の影響なのだ。すなわち南北戦争によってアメリカのキリスト教各教派も南北に分裂し、その結果日本への宣教も南北に分かれて別々に行なわれた。その結果、各教派が東西に分かれ、各神学校も東西に二つあるということになったのだ。ここにも南北戦争の深刻な影響があると言える。(戒能信生)

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