2021年2月20日土曜日

 

牧師の日記から(306)「最近読んだ本の紹介」

古矢旬『グローバル時代のアメリカ』(岩波新書)「シリーズ・アメリカ合衆国」の四冊目。1970年代からトランプ大統領の出現までの時代を取り上げている。この50年間のアメリカ史は、自分自身の歩みと平行しているので、ある臨場感をもって読んだ。これまで特に日本との関係で合衆国の外交政策に専ら関心をもってきたが、冷戦の終結を経て唯一の覇権国家となった合衆国の内政の変遷を改めて教えられた。共和党と民主党という二大政党によって大統領選挙が行なわれ、上院下院の連邦議会が構成されるとばかり思い込んできたが、この50年の間に政党はねじれ、変質して来たという。典型的には、かつて奴隷解放を主張したリンカンは共和党選出の大統領だったが、現在の共和党はトランプ与党として、リベラル政権とは到底言えなくなっている。つまりアメリカ民主主義は大きく変容し、対外政策、税制、人種差別、銃器所持、人工中絶問題などで内部に深刻な対立と分断を抱えている。そこでは、自国至上主義やポピュリズムが横行し、とりわけ市場優先の経済政策によって貧富の格差が拡大し、この国の戦後民主主義のお手本では最早あり得ない。ようやくトランプは去りバイデン大統領が就任したものの、これからのアメリカ合衆国は、そして世界はどうなっていくのか暗澹たる想いに駆られた。

島田裕巳『捨てられる宗教』(SB新書)宗教学者であるこの著者が書いたものは、「日本宗教史」の講義の参考にするためほぼ目を通してきている。例えば葬儀の変遷に日本人の宗教意識の変容をみる著者は、宗教が捨てられる時代になったという。その最大の理由は、平均寿命が伸びたからだと見る。つまり長寿社会になっている先進国ではいずれも宗教は衰退し、まだまだ医療環境が整わず、幼児死亡率が高く、平均寿命が低い開発途上国では宗教がなお勢力を保持していると指摘する。そこには死生観の差異が影響しており、後進国でもやがて豊かになり平均寿命が延びてくると、宗教は廃れていくと予想する。宗教社会学的にはおそらくそう言えるのだろうが、果たして宗教の生命力はそれだけだろうか。

對馬達雄『ヒトラーの脱走兵』(中公新書)第二次世界大戦下において、戦場から脱走して処刑されたドイツ軍兵士は2万人に及ぶという。それは、交戦国のアメリカやイギリス軍の場合の100倍以上に達する。特に絶滅戦争と言われた独ソ戦線において大量の脱走兵が出ているが、なにより総統ヒトラーが「脱走兵は死なねばならない」(『わが闘争』)と言ったことによるとされる。奇跡的に処刑を免れて生き延びた人々の戦後を追い、その名誉回復に至るまでの苦闘をドキュメントしている。「裏切りか抵抗か、ドイツ最後のタブー」という副題が示すように、戦争責任の最後の重い課題を取り上げている。翻って「生きて虜囚の辱めを受けず」(戦陣訓)とされた日本軍の場合はどうだったのかが気になった。(戒能信生)

 

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