2021年3月6日土曜日

 

牧師の日記から(309)「最近読んだ本の紹介」

ルシオ・デ・ソウザ・岡美穂子『大航海時代の日本人奴隷』(中央公論新社)戦国時代から江戸初期にかけて、フィリピンやマカオに日本人傭兵がいたことは知っていた。しかしメキシコやポルトガルなどの当時の史料に日本人奴隷についての言及が多数見られることを初めて教えられた。その史料というのが、異端審問記録というのだから驚く。当時ポルトガルでは、キリスト教に改宗したユダヤ人に対する迫害があり、それを逃れてユダヤ商人たちが遠くインドやマカオ、日本、さらにメキシコにまで逃げて来ていたという。しかしユダヤ人追及の手はアジアにまで及び、やがてついにメキシコで捕縛されて審問にかけられる。その裁判で、日本人奴隷の証言が決め手になったというのだ。ポルトガル本国では公式には日本人奴隷は禁じられていたのだが、実際にはかなりの数の日本人奴隷たちが各地に存在したらしい。興味深いのは奴隷制度を正当化する理屈で、異端との戦争(聖戦)で捕虜にした者は、奴隷にすることが認められていたという。アフリカからの奴隷売買で莫大な利益を上げたポルトガルでは、当然のようにアジア人を奴隷として使用していたのだ。あの時代、数奇な運命によってアジアの各地や南アメリカ、さらにヨーロッパにまで渡って働いていた日本人奴隷がいたという事実に、改めて考えさせられた。

室井康成『時大主義 日本・朝鮮・沖縄の「自虐と侮蔑」』(中公新書)古い資料などを読んでいて、時折「時大主義」という言葉にぶつかる。「大に事(つか)える」という漢文に由来し、「強者に追随して保身を図る」という意味で、明治初期に福澤諭吉が用いていてから一般に広まったという。著者は民俗学が専攻で、柳田国男が日本人の特徴として「事大主義と島国根性」を挙げたことをきっかけに、日本の近現代史において「事大主義」という言葉がどのように用いられてきたかを綿密に追っている。初めに、朝鮮民族に対する否定的な言説として用いられたこの言葉が、やがて沖縄差別の文脈で用いられ、さらに日本人そのものの民族性、欠点として理解されるようになったという。この頃官僚の世界で流行りの「忖度」「長いものに巻かれろ」という心情も、この「事大主義」と言える。

近藤健児『絶版新書交響楽』(青弓社)著者は経済学者だが、絶版になっている新書や文庫を収集する稀代の読書家のようだ。本書で紹介されている100冊近い外国小説の中で、私が読んだものは一つもなかった。世には無類の読書家がいるものだとホトホト感心させられた。

ひるなま『末期ガンでも元気です』(フレックスコミック)人に勧められて手にした。38歳の女性漫画家がステージ4の大腸がんに侵される。その発見から、検査、開腹摘出手術、放射線療法へと至る経過を独特のマンガで表現している。これほど深刻ではないものの、一応前立腺癌の摘出手術を受けた身としては、身につまされながら読まされた。患者の立場からの具体的な忠告やアドバイスが満載で参考になる。(戒能信生)

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