2021年3月20日土曜日

 

牧師の日記から(310)「最近読んだ本の紹介」

森本あんり『不寛容論』(新潮選書)前著『反知性主義』で、トランプ現象の源流をアメリカ宗教史に探索した著者が、今度は「寛容論」について書いた。ヨーロッパからの宗教難民として新大陸に移住した人々が、お互いの信念や主張をぶつけ合いながら、幾多の失敗と挫折を経て共存する道を見出して行ったという。その経緯と議論を、ロジャー・ウィリアムという特異なピューリタンに焦点を合わせて紹介してくれる。母国イギリスで迫害されたピューリタンたちは、新大陸に理想の社会を建設しようとする。しかしそこには、異教徒の原住民がおり、さらにクェーカーやバプテストなどの宗教的少数者が次々に押し寄せる。自らの信教の自由を主張した人が、今度は別の宗教的少数者を排除する側に立つことになる。その矛盾と徹底して闘ったのがロジャー・ウィリアムだという。原理主義的な非寛容が主張され、さらにヘイト・スピーチまがいの言説が横行する現代社会の難題を、神学思想史から読み解こうとする意欲作。

小塩海平『花粉症と人類』(岩波新書)毎年、この季節になると直子さんが花粉症で苦しんでいる。しかし花粉は、植物の世界の驚くべき進化の成果だという。恐竜たちが地上を闊歩していた時代、裸子植物は花粉を風で飛ばして、はるか遠くまで繁殖できるようになった。今から約5万年前、ネアンデルタール人が埋葬された場所(イラクのシャニダール遺跡)に花束が添えられていた。その事実に、宗教学者は原始宗教の発生を見る。ところが植物生理学専攻の著者は、その花束の花粉にエフェドリンが含まれることから、ネアンデルタール人も花粉症ではなかったかと大胆に推理する。以下、人類の歴史と花粉症との関わりを概説し、花粉症と共存する道を提案する。聖書に花粉症への言及があるかとか、途中で何度も聖書について言及される。調べてみると、著者は東京告白教会の長老で、日本キリスト教会ヤスクニ問題委員会の代表だというので、俄然親しみが湧いた。

リチャード・ホートン『なぜ新型コロナを止められなかったのか』(青土社)著者はイギリスの権威ある医学雑誌『ランセット』の編集長で、熱帯医学の専門家。COVID-19のパンデミックについて、日本のマスコミで語られている理解とはかなり異なる見解を示してくれる。201912月、中国の武漢で最初の患者が発見されたとの情報は、いち早くWHOにもたらされ、その分析結果も公表されたという(各社のワクチンは、これを元に開発された)。これを受けてWHOは一ヶ月後の130日にPHEIK(緊急事態)宣言を発表した。これは2014年にエボラ出血熱の発生の際に8ヶ月を要したのと比べると、きわめて迅速な対応だった。ところがアメリカやイギリスなどの政治家たちが、この感染症の危険性を軽視して対応が遅れたため、先進国で感染症が爆発的に拡大した。すると政治家たちは自らの責任を回避するため、その責任を中国とWHOに押しつけようとして、その言説が世界中に蔓延したという。つくづく考えさせられた。(戒能信生)

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