2021年4月17日土曜日

 

牧師の日記から(313)「最近読んだ本の紹介」

鶴見俊輔『鶴見俊輔全漫画論①②』(ちくま学芸文庫)鶴見俊輔の漫画についてのすべての論稿を集成したもの。編集者の松田哲夫は、著者の片々たる新聞寄稿や講演、書評、エッセーなどを渉猟して漫画について触れた記述を根こそぎ収集し、文庫本の上下巻で1200頁を超えるこの大著を編纂した。私はこれが刊行されてすぐ購入したが、その長大さに辟易して、関心のある部分を読んだだけだった。今回改めて最初からすべてに目を通して、学ばされること、考えさせられることが多かった。小学生の頃から学校教育に馴染めなかった著者は、宮尾しげをの『団子串助』を繰り返し読んで、それが終生の思想形成の基盤に影響を与えたという。この国の独特のマンガの成立は、鳥羽僧正の『鳥獣戯画』に始まり、一休和尚、葛飾北斎、渡辺崋山、富岡鉄斎などの戯画を経由し、明治初期のワーグマンやビゴーなどのヨーロッパの新聞マンガ、さらにアメリカの新聞マンガの影響を受けてこの国に定着したという。そこには、常に権威主義や国家権力に対する揶揄と皮肉の精神があった。戦時下においてはそれが締め付けられていたが、戦後に紙芝居や貸本屋などを経て復興し、現在のこの国の漫画全盛へと至るというのだ。手塚治虫や白戸三平、水木しげる、つげ義春などの作品についての評論は言うまでもないが、漫画というサブカルチャーを通して戦後日本を捉える視点に教えられる。特に私が感銘を受けたのは、ある現代マンガについてエッセーの冒頭で著者がこのように記していること。「戦争中、私は毎日、新約聖書を読んでいた。キリスト教会にゆくと、そこではほとんど毎回、戦争賛美をするので、そこを避けて、一人で読んでいた。今まわりにあるのと別の世界がそこにあった。」

ニコ・ニコルソン/佐藤眞一『マンガ認知症』(ちくま新書)引き続きマンガの話し。漫画家の祖母が認知症になる。その祖母をめぐるテンヤワンヤの日常をマンガに描いて、それに認知症の専門家がコメントを加える形で編集されている。分かりやすく、しかも精確に認知症がどのようなものであるかを解説してくれる。私自身も自分の両親を含めて、これまで多少の経験はあるが、この本で改めて認知症の実態に少し触れることができた。そしてそれは自分自身の将来の現実であることも教えられた。

鳥居徳敏『ガウディ よみがえる天才⑥』(ちくまプリマ―新書)バルセロナのサグラダ・ファミリ聖堂の設計者ガウディについての小伝。その少年時代からの歩みが紹介されているが、この建築家がその独特の構想力を建築作品として創作できたのは、当時のバルセロナの経済的繁栄と、若きガウディの才能を高く評価して建築を依頼したスポンサーたちがいたからだという。住宅として建築されたカサ・パッリョやカサ・ビセンスなどは、今では芸術作品として観光名所にもなっているが、完成当時の評価は毀誉褒貶し、依頼主との葛藤が裁判にもなったという。これらの名(迷?)建築に住む人は果して生活しやすいのだろうか。(戒能信生)

0 件のコメント:

コメントを投稿