2021年9月11日土曜日

 

牧師の日記から(334)「最近読んだ本の紹介」

宮島利光編『浦河教会65年の記録』(浦河教会)北海道の浦河教会から送ってくれたので目を通した。明治の初め、神戸のクリスチャンたちを中心に赤心社が設立され、大変な労苦の中で襟裳岬近くの浦河に入植する。そして元浦河教会が設立された。さらに戦後、北海道特別開拓伝道の一つとして、浦河伝道所が設立される。いずれも日高地方の小規模教会である。この浦河伝道所の旧会堂を利用して「ベテルの家」が生れる。差別されてきたアイヌ出身の人々、さらにアルコール依存症や精神障害に苦しむ人たちがこの場所で共同生活を始めて現在に至る。この浦河教会の歴史が、詳細な年表で顧みられ、さらにその歩みを担った人々の証言で構成されている。中でも看護師として「ベテルの家」創設からの苦難期を担った向谷地悦子さんの「苦労という鉱脈」を感銘を深く読んだ。各個教会史を読むのが私の仕事の一つだが、この一冊は出色の教会史と言える。

黒川知文『マックス・ヴェーバーの生涯と学問』(YOBEL)昨年、ヴェーバーに関する岩波新書と中公新書の二冊が相次いで刊行され、この国におけるヴェーバー研究第三世代の動向が紹介され、いずれも興味深く読んだ。しかし本書は、私と同世代の研究者が、自らの信仰と学問の基軸にヴェーバーを置いて歩んで来た自分史、「私にとってのヴェーバー」が語られ、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』をどのように読み込んで来たかのノートが紹介される。つまり客観的な、あるいは学問的なヴェーバー理解と言うよりも、著者自身のヴェーバー体験が語られる。著者は現在、大学教師の傍ら、賀川豊彦記念松沢資料館の館長を担っている。

藤原明『日本の偽書』(河出文庫)この国の起源を伝える『古事記』『日本書紀』の空白を埋めるべく、様々な偽書が造られて来たという。既に平安期に成立したと言われる『先代旧事本紀』や、神代文字で書かれたという『上記』、それに東北地方に伝わる『竹内文献』などの存在を初めて知った。学会では偽書と決めつけられながら、絶対主義天皇制のもとでは、一部の右翼が持ち上げて話題になり、今でも時折マスコミに取り上げられるという。何しろ『竹内文献』には、モーセの十戒やキリストの墓が東北地方にあるというのだ。なぜこのような偽書が造られ、それが繰り返し脚光を浴びるのかを批判的に分析している。

ブノワ・フランクバルム『酔っぱらいが変えた世界史』(原書房)どこかの書評で知って、面白そうなので読んでみた。世界史を、アルコールを軸にして捉え直している。と言っても、これは学術書ではなくて、言わば面白エピソード集。古代エジプト時代(ピラミッド建設には労働者たちに提供したビールがカギだった?)から始まり、中世、そして近世、さらに現代に至るまでの政治や軍事の重大局面でアルコールが果たした事情を紹介している。それによると、アメリカ独立戦争もフランス革命も、そしてリンカーンの暗殺の背後にも酒が存在したというのだ。(戒能信生)

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