2021年12月18日土曜日

 

牧師の日記から(348)「最近呼んだ本の紹介」

武井菜佳『歴史修正主義』(中公新書)最近、歴史修正主義(revisionism)という言葉をよく聞く。この概念にどのような背景があるのかを、欧米の歴史から概説してくれて参考になった。古くはフランスのドレフェス事件から始まるとされるが、歴史的な事実の意図的な書き換え(改竄)による政治的主張を指すという。本書では主に第二次世界大戦以降の歴史から、ナチ擁護やホロコースト否定論がどのような文脈で生れたのか、またどのように議論されてきたのか(特に法廷で)、そして誤った歴史理解に対する法規制へと至った経緯が解説される。直接取り上げられていないが、法規制のないこの国での歴史修正主義の実態とその問題点が透けて見える仕掛けになっている。キリスト教界においてもそれは無縁ではない。

福田啓三『土の器として歩む』(私家版)信濃町教会の教会員福田啓三さんから恵贈されて一読した。篤実なキリスト者である著者の編集者としての古代史に関わるお仕事の一端が紹介されている。しかし何より交友のあった信濃町教会の教会員たち、斎藤勇、枡富安左衛門、田川大吉郎といったキリスト者たちの戦時下のエピソードが紹介されていて興味深かった。例えば敗戦間際の東京大学文学部教授会での一コマ。「故和辻哲郎教授がわが国の聖戦を主張して英米畜などに負けてたまるかと、声高らかに論ぜられた。これに対して、齊藤勇先生が戦争は悪い、戦争に聖戦などなし、彼我に五分五分の言分がある。特に一方的に、しかも人間の尊厳を汚すような米英畜等という悪罵は慎むべきであると述べられた。すると和辻教授は更に声を励まして、斎藤先生を非国民だとして極め付けられ、教授会の席で罵倒された。斎藤先生は堅く黙して剛毅なる沈黙を以て対応された」(堀豊彦先生の証言)という有名なエピソードも紹介されている。また戦前・戦中の聖和会(壮年男子会員の会)の記録が詳細に紹介されていて、戦時下の信徒たちの記録・証言として貴重である。

大柴恒『山田弥十郎 その人と生涯』(私家版)先日永眠者記念礼拝に出席した川野安子さんから頂いて目を通した。小さな本だが、山室軍平の片腕として廃娼運動に尽力した士官・山田弥十郎の伝記。病気で救世軍を退官後、満州に渡り、大連西広場教会や聖愛病院に協力牧師として関わりをもっていたという。川野さんは山田弥十郎牧師のお孫さんにあたり、千代田教会の橋本悠久子さんとは、広島教会の日曜学校以来の親友とのこと。

教団宣教研究所委員会編『宣教の未来』(教団宣教研究所)私が以前責任を負っていた宣教研究所から、久しぶりに宣教論に関する実践的な出版物が刊行された。中でも深澤奨、保科隆、坂下道朗牧師の論考を興味深く読んだ。例えば、地方教会の現実を背景として、牧師は副業ならぬ「福行」を持てという提言(深澤牧師は実際に教会の裏庭で養蜂と烏骨鶏の養鶏をしている)など、これからの教会と宣教の現場において傾聴すべきだろう。

   (戒能信生)

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