2021年12月24日金曜日

 

牧師の日記から(349)「最近読んだ本の紹介」

内田洋子『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(文春文庫)北イタリア、トスカーナ地方の山岳部にモンテレッジォという寒村がある。中世以来、この村の住民は、貧しさ故に出稼ぎに出る。それが本の行商だった。北はアルプスを越えてスイスに入り、北フランスを通ってイギリスまで通じるフランチージェナ街道を、南はローマに至るまで、本屋のない村々を訪ねて本を売り歩いたという。重くかさばる本の行商が商売として成り立ったのか不思議だが、この村の人々は数世紀にわたって本の行商で生計を立てて来たのだという。イタリアでも忘れかけられているこの村の歴史を、日本人の著者が探訪してこの本を書き、イタリアの露天商賞(こういう賞があるのだ!)を外国人として初めて受賞したとのこと。掲載されているこの村の美しい写真と共に、イタリア文化の奥行きに触れる経験だった。そうそう、ダンテもこの村に滞在したと伝えられている。

中田考『タリバン 復権の真実』(ベスト新書)同志社神学部一神教学際センターの教授であった著者は、以前からアフガニスタンのタリバンについて、その信仰理解や政治思想を紹介して来た。アメリカを中心とする先進国の民主化プロセスが何故に破綻し、いかにしてタリバンが復権したかの背景を、説得力をもって解説してくれる。要するに、西欧文明を押し付けるだけでは民主化は不可能ということのようだ。その点は、同じアフガニスタンであくまで現地の人々に寄り添う仕方で支援活動を展開した中村哲さんの主張と共通する。

金平茂紀『筑紫哲也「NEWS23」とその時代』」(講談社)TBSの現役プロデューサーである著者が、筑紫哲也と共に「NEWS23」を発信していた時代を回顧する。1990年代にこの番組の視聴者だった私も、テレビ・ジャーナリズムに一時代を画したその報道をよく覚えている。そしてそのような報道姿勢が、政権にすり寄る現在のテレビ局にほとんど失われかけている実情を厳しく告発している。昨今のショウ化したニュース番組を見せつけられているだけに、思い当たる節が至るところにある。以前、共同通信の社長だった酒井新二さん(カトリックの篤実な信徒)と話したとき、「テレビはジャーナリズムですか?」と疑問を呈されたのを思い出した。

原武史『歴史のダイヤグラム』(朝日新書)朝日新聞の日曜版に連載されている著者のコラムを愛読している。天皇制研究で知られる著者が、そのコラムを編集したもの(連載は現在も続いている)。著者の趣味である鉄道と絡めて、「鉄道に見る日本の近現代史」を紹介してくれるのだ。そもそもこの国で、予定した時間通りにことを進める「定刻主義」は、鉄道と共に始まったと言われている。その意味で日本の近代化と鉄道の発達は密接に関連しているのだ。皇族や政治家、文学者や文化人たちの鉄道にまつわるエピソードを縦横に引用し、それを当時の時刻表と照合して、具体的な列車名や時間、スケジュールを特定していて興味深い。(戒能信生)

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