2022年1月15日土曜日

 

牧師の日記から(351)「最近読んだ本の紹介」

岡田武夫『悪の研究』(Free Press)二年前に亡くなったカトリックの岡田司教の最後の本。東京教区大司教を務め、病気で退任した後も、小教区に仕えながら本書を書き残したという。岡田さんとは、彼がローマへの留学から帰ったばかりの頃、東京教区の司祭黙想会で一週間生活を共にした。私はプロテスタントの牧師として、初めてこのような経験をすることが許されたのだった。この本は神義論を軸に展開されているが、宣教論的なモティーフで一貫している。彼はカトリック宣教研究所所長として、第Ⅱヴァチカン公会議を踏まえた日本の宣教を具体化するため、NICENatianal Insentive for Evangelization)を主導したが、結果としてこれは定着しなかったとされている。その後司教に就任して多忙になり、直接会って話す機会はなかったが、彼が書くものは時折目にしていた。この遺著を通して、岡田さんと対話したいと願っている。

中村哲『わたしは「セロ弾きのゴーシュ」(NHK出版)中村さんが、NHKのラジオ深夜便「こころの時代」で語った内容を一冊にまとめている。言わば中村哲さんの肉声で、パキスタンやアフガニスタンでの活動を語ってくれる。中村さんは語っている。「別にわたしに立派な思想があったわけじゃないんですね。宮澤賢治の『セロ弾きのゴーシュ』がありますね。お前はセロが下手だから練習しろと言われたゴーシュが、一生懸命練習してると、狸が来たり、野ネズミが来たりして、『子どもを治してくれ』だの、いろいろな雑用をつくるわけです。『まあ、この大事なときに』と思うけれど、『ちょっとしてやらないと悪いかな』ということで。そして上手になっていくわけです。それに近いでしょうね。」

安野光雅『旅の絵本Ⅹ』(福音館書店)一昨年94歳で亡くなった安野さんのアトリエで見つかった原画をもとに刊行された『旅の絵本』の最終巻。子どもたちが小さかった頃、この『旅の絵本』を一緒に見て、そこに描き込まれた様々な民話やエピソードを読み取って楽しんだ。オランダがテーマで、「世界は神が創ったが、オランダの土地はオランダ人が造った」と言われる町々を、例によって馬に乗った旅人が巡り歩いていく。末尾に「私は見分をひろめるためではなく、迷うために旅に出たのでした。そして、頭の中にあるこの絵本のような世界を見つけ」という安野さんの言葉が引用されている。安野光雅さん、長い間楽しませてくれて本当にありがとう。

恩藏茂『「FMステーション」とエアチェックの80年代』(河出文庫)FM放送が始まり、音質の良いステレオ音楽をカセットテープに録音することが流行った。その当時FM雑誌の編集者であった著者の「音楽青春記」。学生の頃、ⅬPレコードがまだ高価で、F放送でクラシックを聴いていた。また夜中の0時から始まるジェット・ストリームは習慣になっていた。あの時代の音楽状況を思い出させてくれる。目白の神学校へ行く途中のバスの中で読み始め、熱中して乗り越してしまったほどだった。(戒能信生)

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