2022年1月8日土曜日

 

牧師の日記から(350)「最近読んだ本の紹介」

パール・バック『わが心のクリスマス』(女子パウロ会)燭火礼拝で、バックのこの本に出て来る中国でのクリスマスの体験を紹介しようとして、書斎をくまなく捜したが見つからない。やむなく四ツ谷駅前のサンパウロ書店でようやく手に入れた。中国に派遣された宣教師の娘として生まれたバックは、少女時代を中国で過ごし、それが『大地』を初めとする彼女の主要な作品の背景をなしている。異教社会で、戦争や災害の犠牲になる民衆の姿を通して普遍的な人間像を描き、1938年にノーベル文学賞を受けているが、今ではほとんど読まれないのではないか。

永江朗編『文豪と感染症』100年前スペイン風邪がこの国でも蔓延し多数の犠牲者が出ているが、その経験が文学作品にどのように取り上げられているかを紹介してくれる。芥川龍之介を初め、斎藤茂吉、永井荷風、志賀直哉、谷崎潤一郎、菊池寛…と、思ったより多くの作家がこの感染症をその作品に取り上げている。しかしそのいずれも、この感染症の世界的な意味とか、文明社会の危機という受け止め方ではなく、ほとんどが一種の風俗というか、変わった流行病としてしか理解していないように思う。世界的にそうであったようで、カミユの『ペスト』以外、偉大な文学作品に結晶したという例は聞かない。戦争や災害の犠牲者の記念碑の類は無数にあるが、疫病についてのそれがほとんどないことと通底している。

寮美千子編『空が青いから白を選んだのです 奈良少年刑務所詩集』(新潮文庫)聖書と人間を考える会で、メンバーの北島ちづ子さんから頂いて目を通した。犯罪を犯して少年刑務所に収監されている少年たちが、情操教育(「社会性涵養プログラム」と呼ばれている)の一環として創作した詩が収録されている。それがすばらしいのだ。劣悪な家庭環境や両親のネグレクトによって傷ついた少年たちの心や感受性が、詩を作ることによって少しずつ回復していく様子を伺うことができる。深川教会の時代、在日朝鮮・韓国人の子どもたちへのボランティア活動を一緒に担った女子学生が、突然教師志望を変更して官僚試験を受験し、法務省に入局した。なんと少女刑務所の刑務官になったのだ。全国の少女刑務所を転々としながら、少女たちの更生のために尽くしている。どんな子どもでも、もう一度やり直す可能性を求めて、彼女たちは日夜大変な努力を続けている。その働きと存在を忘れないようにしなければならない。

新潮文庫編『文豪ナビ 藤沢周平』(新潮文庫)もう30年以上前になるだろうか。ある時期、藤沢周平を初めとして、山本周五郎や池波正太郎などの時代小説を乱読していたことがある。鬱屈する時間をうっちゃるためだったと思う。かなり忙しかったはずだが、寸暇を惜しんでこれらの小説に逃げ込むことで、どこか癒されていたように思う。藤沢周平の代表作をこの「文豪ナビ」で振り返り、あの頃を思い返した。少し時間の余裕があれば読み直してみたいと思うが、果たしてどうだろうか。(戒能信生)

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