2022年4月23日土曜日

 

牧師の日記から(363)「最近読んだ本の紹介」

藤沢周平『三屋清左衛門残日録』(文春文庫)3月半ば、体調不良で2週間ほど入院した。最初のうちは本を読むどころではなかったが、賛育会病院に転院した頃から、直子さんに頼んで本を差し入れしてもらって病床で読んだ。但し難解なものは全く受け付けず、以前読んだ藤沢周平の時代小説を次々に再読した。特にこの小説は、側用人の要職を隠退した主人公の心情が書かれていて身につまされるものがあった。藤沢周平の時代小説は、井上ひさしが「打率7割」と評して知られるように、大衆誌に連載したものとしては完成度が高く再読に耐える。病床での無聊の日々を慰められた。

山口雅弘『ガリラヤに生きたイエス 命の尊厳と人権の回復』(ヨベル新書)退院すると著者からこの本が贈られて来ていて、一気に読まされた。私とほとんど同世代の牧師で、新約聖書学者でもある著者のラディカルなイエス理解が全面展開されている。以前に書かれた『イエス誕生の夜明け』は、聖書学的な観点から展開されていたが、本書では、それを踏まえてさらに率直な「ガリラヤに生きたイエス」像が提示され、学ばされることが多かった。ただこのように当時の時代状況の中でのイエス像がストレートに描かれると、かつて田川健三のイエス理解に対して、吉本隆明の「パレスチナの一革命家の生き様を見せつけられる印象を拭いきれない」という批評を思い出してしまう。古代社会と現代とがダイレクトに結びつけられることにも小さな違和感がある。特に、繰り返し「使徒信条」がイエスの生の現実を捨象していると批判されているが、そのことを認めつつ、「使徒信条」との接点が考えられないだろうかと考えてしまった。

小川幸司・成田龍一編『世界史の考え方』(岩波新書)来年から全国の高校の歴史教科書が大きく変わる。これまで「世界史」「日本史」と分かれていた近現代史を「歴史総合」として総合的に取り上げるという。本書はそれを念頭に、近現代の世界史と日本史の課題を整理したもので、専門の研究者たちとの対論を重ねる仕方で編集されていて読みやすい。高校時代、日本史は明治期まで、世界史は第二次世界大戦までしか学ばなかった。教科書には、それ以降現代に至るまでも取り上げられていたのだが、歴史的評価が定まっていないという理由?で、現代史はオミットされ、事実大学受験にも出題されなかった。本書では、課題テキストが提示され(例えば大塚久雄『社会科学の方法』、丸山眞男『日本の思想』など)、その後の研究成果や批判的議論も紹介されていて、とても勉強になった。

石井寛治「日本社会の世界史的・構造的特質を考える」(『じっきょう』地歴公民科資料no.94)上記の本を読んだところに、教会員の石井寛治さんから頂いて読んだ。教科書会社の実教出版が出している資料集に寄稿されたもの。石井さんの著書『日本の産業革命』は、上記の本でも必読文献に挙げられていたが、この国の明治以降現代に至る政治・経済の構造的問題が簡潔に、分りやすく分析されていて感銘を受けた。(戒能信生)

0 件のコメント:

コメントを投稿