2022年8月20日土曜日

 

牧師の日記から(380)「最近読んだ本の紹介」

内海愛子、他編『復刻「信友」』(不二出版)BC戦犯として巣鴨プリズンに収容されていたキリスト者たちが発行していた機関誌『信友』がついに復刻された。その中心にいた中田善秋は、日本基督教団から南方派遣宣教師の一人としてフィリピンに派遣されたキリスト者である(派遣当時は日本神学校の神学生だった)。中田は、現地の教会と日本軍との間に立ってその融和のために働いていたが、いわゆる「サンパブロ事件」(日本軍による住民虐殺事件)に関わったとして30年の有罪判決を受け、巣鴨に移送されて来ていた。彼は、同信の友と語らって収容所内で聖書研究会を始め、『信友』を発行し続ける。そこでは、多くの戦犯たちが早期釈放を求める中で、BC級戦犯裁判の杜撰さと非道を訴えながらも、自らの戦争責任を凝視して、安易な釈放運動に距離を置く姿勢を示している。1955年に釈放されるが、自分たちを見捨てた既存の教会には戻らなかった。ある意味で教会の、そして私たちの戦争責任を問う極めて重要な証言群と言える。中田の逝去後、この貴重な資料が、BC級戦犯の問題に取り組んでいた内海愛子さんに託されたというのだ。実は、数年前鈴木玲子さん(元NCC議長)と内海愛子さんがわざわざ千代田教会を訪ねてくれたことがある。その時、内海さんから『信友』などの膨大な資料の存在を知らされ、その共同研究や復刻に協力を求められた。ただその当時は、私自身の健康上の問題とこれ以上仕事を増やすべきではないと考え、自分はその任ではないとお断りした経緯がある。そのことがずっと心に引っかかっていた。その後、山川暁や豊川慎、小塩海平の諸氏の協力を得て、不二出版から復刻される運びになったのだ。その「総目次」と「解説」に目を通して、その復刻を喜びながら、自分が協力できなかったことを忸怩たる想いで顧みている。

鶴見俊輔『日本思想の道しるべ』(中央公論社)鶴見俊輔生誕100年を記念して、主に1960年代の文章を集めて刊行された。半世紀以上昔の文章であるにもかかわらず、2022年現在のこの国が依然として抱える問題や思想の課題が鮮やかに照射されることに改めて驚く。文章が全く古びておらず、読む者を喚起させる力をもっている。中でも、新渡戸稲造を取り上げた「日本の折衷主義」に多くを教えられ、考えさせられた。新渡戸は、言うまでもなく一高校長や東大教授、東京女子大学長を務め、国際連盟事務局次長を担ったクェーカー教徒である。自らの学派のようなものは作らなかったが、多くの学生たちに人格的な影響を与えている。著者の父・鶴見祐輔もその一人であり、したがって鶴見の新渡戸批判は、そのまま政治家であった父・祐輔、さらに新渡戸に影響を受けた官僚や政治家たちへの批判につながっている。新渡戸の思想の中心を「修養の勧め」とその「折衷主義」に読み取る著者は、折衷主義を一義的に否定しない。しかし状況に流される折衷主義ではなく、個人に根差したパーソナルな「折衷」の可能性を、新渡戸の挫折から引き出すべきとしている。(戒能信生)

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