2022年8月27日土曜日

牧師の日記から(381)「最近読んだ本の紹介」

加藤陽子『歴史の本棚』(毎日新聞社)日本近現代史が専門で、『それでも日本人は戦争を選んだ』で知られる著者の書評集。歴史研究者がどのような本を読んでいるのかが垣間見えて興味深かった。取り上げられている50冊以上の書物の内、私自身が読んだものはほんの数点でしかない。その幅の広さと、書評の腕に舌を巻く。石井寛治さんの専門的な研究『帝国主義日本の対外戦略』も取り上げられているが、簡にして要を得た紹介と評価の仕方に感服する。この書評のお陰で堅い専門書が増刷されたそうだ。

内澤旬子『カヨと私』(本の雑誌社)小豆島に移住して、雌山羊のカヨを飼い始めてからの顛末が描かれる。この著者は、かつて『世界屠畜紀行』や『飼い喰い』を書いた人で、その最後はどうなるのか(食べてしまうのではないか?と)ハラハラしながら読まされた。カヨと家族のように暮らすうちに、繁殖力の旺盛なカヨは次々に子どもを産み、ついには7頭にまで増える。その山羊たちとの交友がなかなか興味深い。実は、私自身も小学生の頃、一頭の山羊を飼っていた。餌やりから、散歩、乳搾り、山羊小屋の掃除に至るまで、私の担当だった。山羊を連れて登校する途中、土手などの草場に繋いでおき、下校時にロープが絡んで動けなくなっているのを助け出して下校する。乳を搾り、煮沸して牛乳瓶に入れ、近所の結核療養所に持って行くと、一本10円で買ってくれた。それがお小遣いだった。山羊を飼っていた少年時代を遥かに思い出しながら、楽しんで読んだ。

高野慎三『貸本屋と漫画の棚』(ちくま文庫)1950年代から60年代半ばにかけて、全国に3万軒近い貸本屋があったという。その本棚には、大衆小説と並んで、子ども・少年向けのマンガがあった。戦後すぐの時期、子どもたちのほとんど唯一の娯楽であった街頭紙芝居がテレビに追われて衰退し、その描き手たちが貸本漫画の制作を始める。その中からいわゆる「劇画」が生まれ、その後のマンガ全盛期を準備する。貧しい勤労青年や若者たちがその読み手であり、貸本屋の利用者だった。著者は有名な漫画誌『ガロ』の編集者として、その時代と並走して来た経験から、当時「悪書追放」運動の的とされた貸本漫画に注目し、その作家たち(白戸三平、水木しげる、つげ義春等々)の情念を戦後の時代を映す断面として分析している。私自身も中学生から高校生の頃、近くにあった貸本屋を時々利用していた。家にはない大衆小説の類(例えば源氏慶太や柴田錬三郎等)を借りて読んだ。また本書で紹介されている初期の貸本漫画も覚えている。

鶴見俊輔『敗北力(増補版)』(SURE)この夏は、鶴見俊輔の晩年の著作を集中的に読んだ。一般書店で販売されていないので、京都の出版社SUREから羊子が取り寄せてプレゼントしてくれたのだ。Later Worksと題された短いエッセーが収録されており、当方も晩年を迎えてある切実さをもって読まされた。特に、桑原武夫、森毅、神谷美恵子、丸山眞男、梅棹忠夫といった人々との交友録と端的な人物評に感銘を受けた。(戒能信生) 

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