2023年2月11日土曜日

 

牧師の日記から(404)「最近読んだ本の紹介」

沢知恵『うたに刻まれたハンセン病隔離の歴史』(岩波ブックレット)先日、玉島教会を訪れた際、沢知恵さんが会いに来てくれてこの本を頂いた。知恵さんは、故・沢正彦牧師と金纓さんの長女で、歌手として活動している。幼いときに父親に連れられてハンセン病療養所大島青松園を訪ねたことがきっかけで、青松園の患者さんたちとの交流が復活し、岡山に移住する。偶然、青松園の古い資料に園歌を見つけたことから、全国に散在する療養所を訪ねてそれぞれの園歌を発掘し、それを分析して岡山大学大学院に提出した論文がこのブックレットのもとになっている。それぞれの園歌は山田耕筰や本居長世を初めとする高名な音楽家が作曲している場合もあるが、問題はその歌詞。「民族浄化」や「一大家族」「楽土」などをキーワードとして、強制隔離を合理化したものが多い。しかし著者は、患者さんたちにそれらの園歌がどのように受け止められ、歌われてきたかを詳細に聞き出している。それによってまさに「うたに刻まれたハンセン病隔離の歴史」が描き出されている。差別の歴史に、音楽という視点から切り込んだ労作と言える。現在全国に14箇所の療養所があるが、いずれも患者さんたちの高齢化によって終末期を迎えている。この労作はギリギリ間に合ったという感がある。私自身も、学生時代の駿河療養所のワークキャンプに始まって、これまで様々な機会に御殿場の神山復生園、瀬戸内海の長島愛生園、清瀬の多摩全生園、青森の松岡保養園、沖縄愛楽園、奄美和光園などを訪ねて、キリスト者の患者さんたちと交流して来た。その一つ一つの出会いを思い出して感銘を新たにした。

増田琴『マルコ福音書を読もう いのちの香油を注ぐ』(日本キリスト教団出版局)経堂緑ヶ岡教会の牧師増田琴さんから恵贈されて一読。女性の視点からの福音書の読み解きが、柔らかく説得的に語られる。話し言葉で、分りやすいのに感心した。

内村鑑三『基督信徒の慰め』(岩波文庫)ずっと以前に読んでいるが、改めて散歩の途中に少しずつ味読した。「不敬事件」によってバッシングを受けた直後の内村の最も不遇の時期に書かれたものだが、何よりその文体に感銘を受ける。「愛する者の失せし時」「国人に捨てられし時」「基督教会に捨てられし時」「事業に失敗せし時」「貧に迫りし時」「不治の病に罹りし時」という各章に、内村自身の経験に裏打ちされた烈しい言葉がほとばしる。声に出して音読するのに充分耐える名文と言える。

島薗進編『政治と宗教』(岩波新書)統一協会問題について、特に自民党などの政治との癒着の構造とその歴史について、分かりやすく解説してくれる。しかし、安倍元首相の暗殺事件がなければ、このような書物は出版されたなかったことを考えると、何とも複雑な感じが残る。この国の政治と宗教の問題が、きちんと論じられてこなかったことがその背景にあると言えるだろう。それは私たち自身の責任でもある。(戒能信生)

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