2023年4月23日日曜日

 

牧師の日記から(414)「最近読んだ本の紹介」

木原活信『ジョージ・ミューラーとキリスト教社会福祉の源泉』(教文館)19世紀のイギリスで大規模な孤児院を創設し、かつ世界的な伝道者であったジョージ・ミューラーについては、金井為一郎研究の関係で知っていた。金井先生はミューラーの簡単な伝記を書いているのだ。そのジョージ・ミューラーの生涯を、近年の研究を踏まえて詳細に紹介したのが本書。著者は同志社大学の教員で、クリスチャン・アカデミーの評議員でもあり、私の顔見知りである。ミューラーはドイツ人で、最初は伝道者としてロンドンに派遣されるが、ふとしたことが契機になって孤児院事業に乗り出す。そのためには莫大な資金を必要とするが、ミューラーはただひたすら神に祈り、「天助」を求めてそれを実現してゆく。いわゆる「自助」「共助」「公助」に頼らず、「天助」にのみ依り頼むその姿勢は、最初期のプリマス・ブレズレンの信仰に由来すると著者は指摘しする。ただ、これときわめてよく似た姿勢を、CIM(中国内地宣教会)のハドソン・テーラーが採っていたことが知られる。事実テーラーとミューラーは交流があり、本書にも言及があるが、詳しくは述べられていない。しかしこのミューラーの「天助」の信仰理解が、この国の孤児院事業の父と言われる「石井十次」に影響を与えることになったという。

春名康範『新約聖書一日一章』(日本キリスト教団出版局)昨年、旧知の春名先生から、「旧約聖書一日一章」の原稿がメール添付で送られてきた。どこか出版してくれるところがないかという相談だった。聖書学的な研究書や注解書の類は数多くあるが、信徒が日々の聖書を通読する際の手引きになるようなものは少ない。それで牧会する天満教会などで、聖書を一章ずつ取り上げて簡単な解説を試みた原稿をまとめたものだという。ただ膨大な分量なので、引き受ける出版社がなくて困っていたのだ。いくつかの出版社に当たってみたが、最終的に教団出版局に持ち込み、今般、新約聖書の分だけが書籍化されて送られてきた。ただ、内容的に考えると、春名先生の本来の持ち味は旧約聖書の方にこそあり、続く旧約編の出版が待たられるところではある。

へニング・マンケル『スウェーディッシュ・ブーツ』(東京創元社)前作『イタリアン・シューズ』の続編で、著者の遺作。医療事故の責任を取り世捨て人のように孤島に引き籠っていた元医師が、元愛人とその娘の出現を切っ掛けに社会性を回復し始める(そこまでが前作の内容)。それから数年後、主人公の家が何者かの放火によって全焼してしまう。つまり引き籠り生活の拠点であった家を失った主人公のその後が淡々と描かれる。スェーデン社会の変遷を背景に、外国人を排斥する雰囲気がこの小説の舞台である群島にも押し寄せる。その中で老齢を迎えた主人公の孤独と、それでも人とのつながりを求める心境、そして過去の小さな過ちの回想が重層的に書き込まれて、身につまされた。(戒能信生)

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