2023年4月29日土曜日

 

牧師の日記から(415)「最近読んだ本の紹介」

最相葉月『証し 日本のキリスト者』(角川書店)本書の帯に「北海道から沖縄、五島、奄美、小笠原まで、全国の教会を訪ね聞いた135人の言葉と信仰のかたち」と謳われている。実際に様々な教派のキリスト者たちの証言を聞き書きし1000頁を越える大著に編集されている。そこには、一人一人のクリスチャンが、どのようにキリスト教と出会い、洗礼を受けるに至ったか、そしてその後の信仰者としての歩みが綴られている。このような証言集が、キリスト者ではない作家によって、一般の書店から刊行されたことに先ず驚く。その一つ一つを共感しながら読まされた。教会には、大袈裟に言えばアウグスティヌスの『告白』以来、自らの信仰への道のりを証しする伝統がある。私も、自分が仕えて来た教会の信徒たちの「私の歩んできた道」に注目して来た。この国では数多くの各個教会史が刊行されているが、そのほとんどは牧師の視点から編纂されている場合が多い。肝心の信徒たちの存在は、そこでは顧みられないことが少なくない。以前仕えていた東駒形教会の『80年史』『90年史』を編纂する際、「雲のような証人たち」と題して、教会員一人一人の信仰者としての証言を(時には聞き書きして)採録して来た。同じような作業を、この著者が担われたことに感銘を覚えた。

日本クリスチャン・アカデミー共同研究『コロナ後の教会の可能性』(キリスト新聞社)私が責任を負っているNCA関東活動センターの共同研究の成果が、ようやくブックレットの形で出版された。基本的な企画や研究員の選任は私たちが担ったが、9人の研究員にすべて委ねて研究会は進められた(私もリモートで実施された研究会に、時間の許す限り陪席した)。コロナ禍で、礼拝が中止されたり、リモート礼拝が行われたり、あるいはリモート聖餐の可能性が検討されたりと、この間諸教会は混乱の中で様々な模索を経験してきた。カトリックや聖公会などの他教派も含めて、比較的若手の牧師・司祭によるこの共同研究は、危機の中での礼拝や宣教の在り方を新しい視点で問い直している。このような試みの中から、これからの教会の可能性が開かれていくことを期待している。

柄谷行人『柄谷行人対話篇Ⅲ 1989-2008』(講談社文芸文庫)柄谷行人と現代作家たちとの対談集。柄谷の文学に対する捉え方が、作家たちとの対話によって引き出されている。イデオロギー対立の時代が去り、豊かで多様性に富む現代社会は、一方で夢や理想が失われている。そのような時代に文学はどのような位置を占め、その役割を果たしていくのかが提示されている。柄谷自身の文芸評論は、私が目を通してきた限りではきわめて難解で、この人固有の議論について行けないことがあるが、様々な作家たちとの対話を通して、現在のこの国でほとんど唯一の「知の巨人」柄谷行人の多面的な姿が垣間見られるのが興味深い。(戒能信生)

 

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