2024年5月5日日曜日

 

牧師の日記から(467)「最近読んだ本の紹介」

倉田百三『出家とその弟子』(新潮文庫)高校生の頃、この本と、西田幾多郎の『善の研究』、阿部次郎の『三太郎の日記』が必読書だと言われて、手に取ったものの歯が立たなかったことを覚えている。その中で『出家とのその弟子』だけは読み通したはずだ。読書会『キリスト教と文学』の課題図書に取り上げられたので、50年ぶりに再読して驚いた。私の記憶にあるものとかなり異なっていたからだ。もちろん浄土真宗の開祖親鸞とその愛弟子唯円、さらに親鸞の息子の破戒僧・善鸞を主要人物とする脚本という大枠は同じなのだが、その中身というか、内容が私の記憶とかなりズレている。特に罪意識や罪観の問題について、若かった私自身の経験や想いをこの作品の中に独自に読み込んでいたらしい。ところで、中島岳志によれば、大正期の煩悶青年の典型とされる倉田百三が、昭和期に入ると熱烈な皇国主義者になったという。良心的な煩悶青年が皇国史観に絡められていった経緯は、キリスト教における日本的贖罪信仰のケースと重なるところがあり、日本の教会の課題でもある。

谷川俊太郎選『茨木のり子詩集』(岩波文庫)この欄で、茨木のり子の詩とエセーを紹介したばかりだが、谷川俊太郎選の『詩集』が出たと聞いて、一読した。谷川がどのような選び方をしているかにも興味があったが、茨木のり子の逝去後に刊行された夫・三浦安信について詠んだ詩集『歳月』から数編が選ばれており(私は未読)、感動をもって読んだ。自立した女性詩人が、生活を共にした夫を心から愛していたこと、その人を病気で失った「生木を裂くような」悲しみが伝わって来た。また茨木のり子たちが始めた『櫂』の同人仲間だった大岡信との対談も収録されていて、興味深く読まされた。詩人というのは、その作品に、その人柄や性格、趣味や好みまでそのまま現わされるという事実を改めて思い知らされた。私などは到底詩人にはなれない。

鶴見俊輔『内にある声と遠い声 鶴見俊輔ハンセン病論集』(青土社)鶴見俊輔のハンセン病との関わりについてはこれまで断片的に読んできたが、それらが一冊にまとめられたと知って再読し、改めて感銘を深くした。亡命ロシア人トロチェフとの出会いと栗生楽泉園での再会、YMCAホテルがトロチェフの宿泊を断ったことへの憤激、それが同志社の教え子たちが患者さんたちを受け入れる施設の創設につながった経緯、またハンセン病を介して出会った志樹逸馬、大江満雄、神谷美恵子たちとの交友を共感をもって読んだ。私自身も、学生時代に好善社のワークキャンプで国立駿河療養所を訪ね、神山教会の患者さんたちと出会っている。またカトリックの神山復生園で存命だった井深八重院長にもお目にかかったことがある。以来、各地の療養所の教会を訪れて、患者さんたちとのささやかな交流を重ねてきた。終末期を迎えている各療養所の教会と患者さんたちのことを覚えながら繰り返し目を通した。(戒能信生)

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