2024年7月6日土曜日

 

牧師の日記から(476)「最近読んだ本の紹介」

石浜みかる『証言・満州基督教開拓村』(日本キリスト教団出版局)40年以上前のことになる。戦時下の教団資料を調べていて「満州基督教開拓団団員募集」という小さな公告を見つけた。これは何だろうと不思議に思ったが、だれに聞いても分からない。そこから調査が始まった。やがて賀川豊彦を提唱者とするキリスト者移民運動が存在した事実をつきとめ、『福音と世界』に紹介した。これがきっかけで、収集した資料を緑蔭書房から資料集として刊行する計画が持ち上がる。その解説を作家の石浜みかるさんに依頼したのが、本書の原型。出版社の事情で資料集刊行は断念したが、みかるさんの原稿が残った。やむなく教団出版局に持ち込み、賀川資料館の出版助成も取り付けてようやく刊行された。私としても、自分が発掘した基督教開拓団の全体像を、元団員やその家族の証言も含めてまとめてくださったことに心から感謝している。

原田マハ『奇跡の人』(双葉文庫)読書会「キリスト教と文学」の課題図書にあげられたので一読。盲聾啞の三重の障害を負うヘレン・ケラーと教師サリバンの物語を、なんと明治期の津軽に置き換えて小説化した作品。「奇跡の人」という標題は、言うまでもなく映画The Miracle Workerを下敷きにしているが、岩倉使節団と共に渡米した少女たちの一人をサリバンに見立て、帰国後伊藤博文に推薦され津軽の有力者の座敷牢に監禁されている障害を負う少女と出会う。さらにそこに、津軽三味線を弾く盲目の少女を介在させて、ヘレンが文字の意味を見い出していく過程を物語る。二重三重に工夫されていて感心させられた。

笠原十九司『日本軍の治安戦』(岩波文庫)第二次大戦下の日中戦争の実相についてはほとんど知られていないという。日本政府が正式に宣戦布告しないままにズルズルと戦線を拡大したために、満州事変とか日支事変、上海事変と呼ばれて来たこともある。正式な戦史も残されておらず、実際にどれ程の被害が出たかの実態も未だに不明のまま。「三光作戦」に一兵卒として従軍した作家・田村泰次郎が「長い戦争の期間を通して、日本軍に殺された住民の数は、恐らく日本軍と戦って死んだ中国軍の兵隊の数より多いのではないだろうかとさえ、私には思われる。少なくとも、中国の奥地では、戦場で見る敵兵の死体よりも、農民の数の方が私たちの眼に多く映るのが普通だった」と証言している。つまり中国軍との戦闘よりも、日本軍の支配下における治安戦で殺害された一般の中国人農民たちの方が多かったというのだ。「焼き尽くし、殺し尽し、奪い尽くす」三光作戦の実態を、戦後、戦犯として太原戦犯管理所に収監された日本兵たちの告白などによって明らかにしている(驚くべきことに、周恩来の指示で、この戦犯たちは一人も処刑されなかったという)。エピローグで、日本の敗戦後、日本軍に協力していた対日協力者たちのその後の運命に触れられていて、胸を突かれた。(戒能信生)

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