2024年7月13日土曜日

 

 牧師の日記から(477)「最近読んだ本の紹介」

和田誠『本漫画』(中公文庫)左眼の白内障と緑内障の手術をしたところ、左右の視力のバランスが取れず困っている。術後の経過そのものは順調と言われるが、パソコンの画面を見るのにも、新聞を読むのにも難渋している。原稿などは、PCの画面に大きく拡大してなんとか入力している状態。文庫本の字が読めないと嘆いていたら、羊子が「これなら」と勧めてくれたのが本書。イラストレーターの和田誠さんが、毎日新聞の書評欄に連載した読書にまつわる一コマ漫画が収録されている。文字は全くなく、和田さん特有の優しい線画で描かれている。すぐ理解できるのもあるが、しばし考え込んでからハッと気づかされるものもある。中にはついに意味が分らないものもいくつかある。毎日新聞の書評欄を刷新した書評家・丸谷才一の提案に応えたもので、和田誠さんならではの意匠と工夫、ユーモアに満ちている。繰り返し眺めて、しばらく眼の不自由さを忘れさせてくれた。

和田誠・安西永丸『青豆とうふ』(中公文庫)和田さんのイラスト入りの他の本はないかという要望に羊子が取り出してくれたのがこの一冊。イラストレーターの二人が、どちらかがエセーを書き、片方がイラストを描く仕方で交互に連載したもの。読んでいる内に、この話はどこかで聞いたことがあると思いながらも、楽しく読み終えてから、やはり以前に読んだことがあることに気がついた。この類のエセーは、楽しんで読むことができるが、読む片端から忘れていくらしい。と言うか、ハナからそのように書かれていることに気づかされる。

吉村昭『戦死の証言者たち』(文春学芸ライブラリー)吉村昭のドキュメント小説、とりわけ戦史ものは定評がある。専門の歴史研究者たちが「研究文献」として取り上げるほど。著者は、残されている膨大な資料を徹底的に検証して、史実に基づいて実証的に書くことでも有名だが、他方で生存者たちの証言を徹底して聞いてまわることでも知られる。その多くは参考文献に上げられていないので、表に出ない。その貴重な聞き書きの録音を起こしたのが本書。連合艦隊司令長官山本五十六の搭乗機が撃墜された際の護衛戦闘機の搭乗員の証言、同じく連合艦隊参謀総長福留繁の飛行艇がフィリピンのセブ島近くに不時着し、ゲリラの捕虜になったのを、セブ島守備隊が交渉して生存者全員を無事救出した事件(海軍乙事件)の関係者たちの証言、さらに戦争末期、瀬戸内海の松山沖で訓練中に沈没したイ号第33潜水艦の生存者の証言など。いずれも当時は厳しく秘匿され、沈黙を強いられた関係者たちの証言が、吉村昭によって克明に聞き書きされている。読みながら、証言者たちとの距離の取り方などを学ばされる。私自身も、戦時下の教会の事情を当時の牧師や信徒たちから聞き書きする際に、証言者たちの信頼を得ることの難しさを経験してきたので、感銘を受けた。(戒能信生)

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