2024年9月21日土曜日

 

牧師の日記から(487)「最近読んだ本の紹介」

黑羽清隆『日中15年戦争』(ちくま学芸文庫)第二次世界大戦のことを、最近は「アジア・太平洋戦争」と呼ぶようになった。真珠湾攻撃から始まるアメリカを相手にした戦争だけでなく、それに先立つ1931年からのあしかけ15年におよぶ日中戦争を忘れてはならないという指摘がそこにある。同じ考えから「15年戦争」と呼ぶ人もいる(鶴見俊輔)。その日中戦争の全体像を、実に様々な観点から描いたのが本書。もとは3巻本だったのが、800頁近い文庫本一冊に収められた。だから字が小さいので読むのに往生したが、何とか読了した。当時の新聞報道、政治家や軍人たちの日記や手記から始まって、天皇の側近たちの証言、招集された兵士たちの短歌などが縦横に引用されているのだ。それだけではない。敵対する側の蒋介石を中心とした国民党政府の側の錯綜した事情、さらに延安の毛沢東を初めとする共産軍(八路軍)の実情が、実に適切にはめ込まれる。私は本書で、毛沢東の大長征の実際を知ることができたし、近衛内閣の「国民政府を対手とせず」声明の経緯や背景を詳しく知ることができた。重慶の国民党政府に対抗して日本政府が梃子入れした汪兆銘南京政府の実態、最前線の兵士たちの食糧事情や健康状態、三光作戦による中国民衆のすさまじい被害の実態、他方で内地の銃後の人々の暮らし、さらにはゾルゲ事件に連座して処刑された尾崎秀実の中国観に至るまで、日中戦争に関わるありとあらゆる出来事を、複眼的重層的な視点で描き出しす。ずっしりと重い読後感だが、久しぶりに充実した時間だった。

太平洋戦争研究会編『写真が語る満州国』(ちくま新書)日露戦争における遼東半島への進出から、関東軍の登場、張作霖爆殺事件、満州事変から日支事変、その間の満州各地のインフラ整備や都市建設、開拓移民の生活、そして敗戦と破局までの歴史を、豊富な写真資料で紹介してくれる新書。大連西広場教会の写真もあるかと調べたが、それはなかった。しかし満州史を写真のイメージで辿ることが出来る。

前野ウルド浩太郎『バッタを倒すぜアフリカで』(光文社新書)前著『バッタを倒しにアフリカへ』の続編。日本の若き昆虫学者が、数年おきに大発生してアフリカや中近東に大災害をもたらすサバクトビバッタの生態を研究するために、モーリタニアに出かけていく。その後、さらにフランスやアメリカ、モロッコで研究を続けた成果(バッタの集団繁殖の研究)を分りやすく、そして楽しく紹介してくれる。同時に、日本における昆虫学研究の実情、研究職ポストの圧倒的少なさと、それを得るための苦労などがユーモアを交えて描かれる。ポス・ドクの苦労は、理系文系を問わず共通するようだ。(戒能信生)

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