牧師の日記から(501)「最近読んだ本の紹介」
左眼の白内障と緑内障の手術をしてから、左右の視力の差が大きくなり、小さな字が読みにくくなっている。辞書はもちろんのこと、新聞の字も読みにくい。文庫本でも小さな文字は駄目で、グッと読書量が落ちている。この年末年始の空いた時間にも、ほとんど本が読めず、結果としてテレビばかり見ることになった。以下はそんな中で目を通した本の紹介。
沢木耕太郎『キャラヴァンは進む』(新潮文庫)同世代ということもあって、この作家の書くものはごく初期から目を通してきた。ニュー・ジャーナリズムの旗手として、ノン・フィクションの分野を精力的に牽引してきたが、いつしか小説にも手を染め高い評価を得ている。随筆にも定評があり、練達の書き手として活躍している。その取材の範囲の広さに驚かされる。私の恩師である井上良雄先生にまで接近して、しばらく先生宅で一緒に聖書を読んでいた。結局、先生の方から取材を断って作品化はされなかったが、その関心の広さや取材力に感心した。このエッセイにも、世界各地への旅と、そこでの様々な人との出会いが綴られていて読ませる。同世代の著者が、今でも精力的に旅と取材を続けていることに励まされもした。
水野直樹他編「日本の植民地支配 肯定・讃美論を検証する」(岩波ブックレット)以前、同じ岩波ブックレットの『検証 ナチスは良いこともしたのか?』を紹介しているが、本書は日本の植民地支配の肯定論を批判的に検証している。台湾・朝鮮・満州などの植民地について、インフラや教育制度、さらに保健衛生制度を整備したことを例にして、日本の植民地支配を肯定的に評価する言説が繰り返されて来た。戦後80年を越えると、直接の証人もいなくなり、今後一層その傾向が表面化してくるだろう。分りやすい断定的なフェイク・ニュース的言説が横行するが、地道な検証作業が求められている。
早川タダノリ『神国日本のトンデモ決戦生活』(ちくま文庫)第二次大戦下の日常生活を、当時の月刊誌、特に婦人雑誌の誌面や、様々なポスター、パンフレットの類を通して、視覚的に再現してくれる。花森安治が戦時下のポスター製作を反省して、戦後『暮しの手帖』を創刊したことを思い出した。(戒能信生)