牧師の日記から(511)「最近読んだ本の紹介」
石川明人『戦争宗教学序説』著者はティリッヒ研究から出発し、戦争と宗教との関わりを様々な角度から研究してきた宗教学者。本書は、その著者のこれまでの研究の総まとめとも言える一書で「戦争宗教学序説」と銘打たれている。古今の戦争と宗教(特にキリスト教)との関わりを、例えば従軍チャプレンの問題や軍隊における祈りなどを取り上げて検証している。私自身の個人的な関心では、戦時下の教会での戦死者の葬儀の問題がある。いくつか資料を集めているが、なかなか難しい課題を含む。この難題を、徴兵制がない戦後のこの国の教会は無視・回避して来た。「新しい戦前」とされる今、改めて切実な問いとして突き付けられているのではないか。本書の最後は、『戦艦大和ノ最期』の著者吉田満の紹介で終っている。すなわち「必要なのは、死に臨んでの強靱な勇気とか透徹した死生観とかではない。静かに緊張した、謙虚に充実した日常生活こそが重要なのだ」という吉田自身の言葉で締め括くられている。
宮田光雄『出会いの旅 わが師わが友』(教文館)今年で97歳になる宮田先生から贈られて一読。著者の学問の師(南原繁や丸山真男)、研究仲間(福田歓一や坂本義和)、そして編集者たち(安江良介、森岡巌)との交友や思い出をまとめたもので、私自身が親しくした人々(例えば井上良雄、隅谷三喜男、土肥昭夫)も取り上げられている。キリスト者として、そして政治学研究者として、また東北大学の学生たちを一麦寮に受け入れて育てた歩みも紹介されていて、改めて感銘を深くした。
塩野七生『ルネサンスとは何であったのか』(新潮文庫)以前読んだはずだが、偶々本箱に見つけて再読した。著者の「ルネサンス三部作」を総覧するような仕方で(つまりフィレンツェ、ローマ、ヴェネツィアの三都市の視点から)ルネサンスの全体像が塩野七生調で語られる。特に印象的だったのは、通例とは異なり、アッシジのフランチェスコをその劈頭に置いていること。ラテン語ではなく俗語のイタリア語で民衆に語りかけたこと、新興階級である商人層の信徒たちに支持されたこと、また簡素なフレスコ画法を採用してジョットーなどの画家を育てたことが理由として上げられているのが興味深い。(戒能信生)
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