2026年1月10日土曜日

 

「牧師の日記から」(545)最近読んだ本の紹介

鶴見俊介『ひとが生まれる 五人の日本人の肖像』(角川新書)1972年筑摩書房刊の書籍を復刊した新書。中浜万次郎、田中正造、横田英子、金子ふみ子、林尹夫の五人を取り上げ、長短はあるものの、鶴見版「代表的日本人」として、その生涯が簡略に紹介されている。最初のジョン万次郎と田中正造については知られているが、その他については多少の説明が必要だろう。横田英子は、私もこの本で初めて知ったのだが、佐久間象山の姪の子で、明治初期に富岡製糸工場の女工として働き、その後軍人と結婚して家庭に入った女性。晩年になって富岡時代の記録を残し、言わば近代製糸業を担った女性たちの証言となっている。金子ふみ子は、伴侶の朴烈と共に天皇爆殺を計画したとして死刑を宣告され、その後無期に減刑されたものの、天皇の名による恩赦状を刑務所長の目の前で破り捨て、23歳で獄中で自死した激烈なアナキスト。最後の林尹夫は、学徒動員で海軍航空隊に配属され、敗戦の直前、四国沖で偵察飛行中に米軍機と遭遇して戦死した人物。著者がこの5人を選んだのは、彼ら彼女たちがいずれも国家や権力による支配と呪縛からはみ出て、一個の人間として自立していたと見るからだ。巻末の赤川次郎とブレイディみか子の解説も興味深い。特にアナキストとしての鶴見の側面を見抜くみか子さんの指摘に納得した。

吉川賢『森林に何が起きているのか 気候変動が招く崩壊の連鎖』(中公新書)アメリカやオーストラリアに頻発する山火事のことは新聞やテレビの報道で知っていたが、昨年来この国でも大規模な山火事が続発しているので、気になってこの新書を手に取った。アマゾンやシベリアなど、世界の森林がすさまじい勢いで荒廃している事実を改めて知らされた。それは地球の砂漠化と生態系の激変に直結し、地球温暖化の引き金になっているという。加えて日本の山林が抱える課題と困難が詳細に報告されていて、つくづく考えさせられた。コメの価格高騰など深刻な問題を抱える農業問題はしばしば取り上げられるが、危機に瀕している森林の現状はほとんど放置されている。「遷移」「樹冠」「林縁」「休眠打破」「深根性樹木」「水源涵養林」等、独特の森林学用語があることも初めて教えられた。(戒能信生)

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