2026年4月4日土曜日

 

「牧師の日記から」(554)最近読んだ本の紹介

滝口正哉『江戸町奉行所 与力・同心の世界』(岩波新書)何の気になしに手に取って読み始めて驚いた。時代劇によく出てくる江戸町奉行所の与力や同心たちについて、その職務や日常生活、収入や趣味、文化活動の実際まで、資料に基づいて微に入り細を穿って紹介されるのだ。しかもその資料を作成したのが「最後の町与力」「最後の八丁堀の旦那」原胤昭というのだから二重に驚いた。原胤昭は江戸幕臣だったが、明治初期に築地大学校に学び、宣教師カラゾルスから洗礼を受けたキリスト者で、女子学院の源流の一つ「原女学校」を設立した人物。また書店十字屋(現在の教文館の前身)を経営し、自由民権運動の錦絵を販売したが新聞紙条例違反に咎められて逮捕、かつて自分が監督した石川島監獄で獄中生活を強いられる。釈放後、その獄中体験記を書籍として刊行し、さらに「監獄改良意見書」を提出。それが明治政府に認められて、実際に北海道集治監の教誨師第一号となって囚人保護活動を続け、退職後も出獄人保護運動を展開した人物で、明治期の日本キリスト教史には欠かせない存在なのだ。しかし何より、原胤昭は、我らが大森意索伝道師の曾祖父に当たるのだ。その原胤昭が、晩年に至るまで町奉行所関連の古文書や記録類を収集し、それを整理する地道な作業をしていたことを、この新書によって初めて知った。

沢木耕太郎『旅のつばくろ ふたたび』(新潮文庫)新幹線のグリーン席に置いてあるサービス雑誌『トランヴェール』の巻頭に、沢木耕太郎のエセーが掲載されている。愛読者が多いようで、その中から選んだエッセー集の二冊目。私もこの人の文章には馴染みがあって、本屋で見かけるとつい買い求めて読んでしまう。著者自身の若き日の貧乏旅行の想い出を読みながら、私自身の若き日の旅をいろいろ想い出すから不思議。飾らない素直な文体が、一種の喚起力を持っているらしい。

渡辺京二『私の明治時代史』(新潮選書)以前紹介した『幕末維新史』に続く講演録で、明治維新から日露戦争までの歴史を縦横無尽に論じている。所謂「労農派」と「講座派」の維新史に関する論争を相対化し、民衆にとっての明治がどのような時代であったかを取り上げていて面白かった。(戒能信生)

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