2019年8月11日日曜日


牧師の日記から(226)「最近読んだ本の紹介」

足立太郎他『農学と戦争 知られざる満州報国農場』(岩波書店)満州開拓移民のことは、満州基督教開拓村の関連で関心を持ち続けてきた。しかし「満州報国農場」の存在はこれまで全く知らなかった。終戦時には満州各地に70近くの報国農場があったとされるが、その関連資料が焼却されたこともあって、これまで一部の研究者の知見に留まっていたという。特に、東京農業大学がこれに関わり、多くの学生が実習生として派遣され、また名だたる農学者たちがその推進に手を貸していた事実を初めて知った。「ビジネスや戦争に取り込まれると、農業はたちまち取引や搾取の道具へと変容する」と「あとがき」に指摘されたことは、この国の農村伝道の歴史においても重く受け止めなければならない。

鈴木敏夫『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』(文芸春秋)スタジオ・ジブリの名プロデューサーとして知られる鈴木敏夫から見たジブリの歩みと、高畑勲と宮崎駿論。『隣りのトトロ』を初めとする数々の傑作アニメ制作の裏話が満載されている。しかし私が改めて教えられたのは、鈴木敏夫の資金集めや協賛企業との提携、大がかりな宣伝活動、さらに封切映画館への上映の働きかけなどがあって初めて、ジブリのアニメが大ヒットになったという事実。映画を見ない私でも、ジブリの作品のほとんどを観ているのだ。2022年には『君たちはどう生きるか』の宮崎アニメが観られというので、今から楽しみにしよう。

竹内悊『生きるための図書館』(岩波新書)戦後、私のささやかな知見でも公立図書館は大きく変容した。施設は立派になり、収蔵図書が増え、専門の司書が調査にも協力してくれるようになった。私の子どもの頃の図書館とは大違いである。その図書館の現在までの歩みを、その課題や問題点と共に紹介してくれる。とりわけ深刻なのは、各自治体の財政難により資料費が減額され、外部委託が増加していることだという。私の妹が、1990年代の公立図書館改革のモデルとされた浦安図書館の司書をしていたこともあって、関心をもって読んだ。

清水眞砂子『あいまいさを引きうけて』(かもがわ出版)ル・グインの『ゲド戦記』の翻訳者として知られる清水さんのエッセー集。巻末に、鶴見俊輔との対談が掲載されているので読んだ。鶴見さんは、かねてからル・グインの父親・文化人類学者のクローバーが唯一生き残ったヤナ・インディアンと出会い、母親のシオドーラがその伝記『イシ 北米最後の野生インディアン』を書いたことが、ル・グインの作品に大きな影響を与えていると指摘していた。それを訳者の清水さんがどのように受け止めたのかの対話が面白かった。

長谷川町子『サザエさん』45巻(朝日新聞社)前回紹介したいしいひさいちの漫画に続いて、羊子の本棚から文庫版『サザエさん』を借り出して、毎晩寝る前に一冊ずつ読んでいる。泥棒と押し売りのエピソードが多いのと、意外にも波平と舟の夫婦喧嘩がしばしば登場することに気がつかされた。昭和20年代から40年代の世相を、日常生活の中から見事に切り取っていると言える。(戒能信生)

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