2020年8月22日土曜日

 

牧師の日記から(280)「最近読んだ本の紹介」

油井大三郎『避けられた戦争 1920年代・日本の選択』(ちくま新書)この国が大東亜戦争になだれ込んでいった経緯については、満州事変(1931年)の前後から論じられることが多い。しかし本書では、その少し以前、1920年代の世界と日本の動きを最近の研究成果を踏まえて分かりやすく紹介している。第一次世界大戦後の軍縮ムードの中で、国際協調路線(新外交=幣原外交)が採られ、在野では吉野作造が大正デモクラシーを、石橋湛山が小日本主義の論陣を張っていた。それに対して大川周明や北一輝などの民族派の過激な主張があった。ヴェルサイユ講和会議(1919年)からワシントン会議(1921年)、そしてロンドン軍縮会議(1930)へと至る国際政治の流れの一方で、特に満州の既得権益をめぐる民族派の主張が、政党や軍部と結託する中で次第に力を増していき、それを新聞が後押して圧倒的な世論を形成していく。たまたま19181920年の時期のスペイン風邪の流行とキリスト教会との関係を調べているので、当時の政治状況を理解するために大変役に立った。

エド・レジス『ウイルス・ハンター アメリカCDCの挑戦と死闘』(早川書房)COVID-19のパンデミックでよく話題に上るアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の歴史を、1995年にザイールで発生したエボラ出血熱の感染拡大防止に活躍したスタッフたちのドキュメントを絡めて紹介してくれる。驚くのは、危険をも顧みず感染症根絶のために現地に乗り込んでいく専門家たちの存在。医師として生活習慣病の退屈な治療?に飽き足らず、感染病との闘いの世界に飛び込んでいく群像が描かれる。CDCは当初、米国内のマラリアの撲滅対策から始まったというが、特に戦後、世界の平和と安定に寄与する合衆国の理念と結びついて、政府が膨大な予算を投じて拡大し、感染症が発生すると直ちに専門家チームをを世界各地に派遣していることにも驚く。ただ今回のCOVID-19については、CDCは初動の水際作戦に失敗し、トランプ政権の不作為もあって後手後手にまわっているようだ。

ジュレド・ダイアモンド他『コロナ後の世界』(文春新書)文明史のダイアモンドや経済学のクルーグマンなど現代世界の知性6人に緊急インタビューしたもの。多くの人が日本の将来を心配してアドバイスをしてくれていることに改めて考えさせられた。日本の社会は世界の潮流からかなり遅れていると見られているようだ。特に1000兆円を越える借金、少子化対策やIT化への取り組みの遅れなどが何人かの識者から指摘されている。この国の内側ではあまり気づかないが、外からはその問題点がよく見えるようだ。そう言えば、テレビ会議などの存在は知っていたが、コロナ騒ぎで、主日礼拝のライブ配信や自分の書斎からZOOMを用いて授業が出来るとは考えてもいなかった。確かにコロナ後の世界は確実に変わるのだろう。それがどのような問題を含んでいるのだろうか。(戒能信生)

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