2021年5月1日土曜日

 

牧師の日記から(315

吉川浩満『理不尽な進化』(ちくま文庫)ダーヴィンの進化論をめぐる思想史で、これまでの様々な論争や議論を大掴みに出来て学ばされた。先ず、現在生存している生物は、この地球上に存在した生命種の001%だという。つまりほとんどの生物がその進化の過程で絶滅していったのだ。その絶滅の仕方の典型が、恐竜たちが滅びた白亜紀の天体衝突で、それまで強者であった生物のほとんどは死滅し、ほんの一部の生命が生き残り現在に至るという。したがって通常考えられるような生存競争とか弱肉強食、自然淘汰といった単純な進化論では説明し切れないという。「理不尽な進化」と言われる所以だ。しかもこの地球の歴史で、恐竜を滅ぼしたような大規模な絶滅が、少なくとも五回以上繰り返されてきたのだという。現在Covid-19によるパンデミックに世界中が震撼しているが、これもまた「理不尽な進化」の一つと言えるのかもしれない。進化論をめぐるグールドとドーキンスの有名な論争(私は知らなかった)の経緯と、そこに残された課題に執拗に著者は拘る。その過程で、ライプニッツから始まり、カントからヘーゲル、コント、スペンサー、ヴィドゲンシュタイン、ハイデガー、ガダマー、フーコーと、知の巨人たちが次から次へと取り上げられていて頭がクラクラするほど。この国では、明治の初めに進化論が紹介されて、ほとんど違和感なく受け容れられたとされる。アメリカなどでは、宗教的な理由で今でも進化論を受け容れない人が多数存在するのと大違いではある。しかしそこで理解されている進化論は、本来のダーヴィニズムとは似て非なるものではないかという指摘に考えさせられる。

上野千鶴子『在宅ひとり死のススメ』(文春文庫)『おひとりさまの老後』を書いた上野千鶴子が、今度は病院や施設ではなくて、在宅での独居死を勧める挑戦的な一作。特に参考になるのは、介護保険制度(著者は高く評価する)が政府によって次第に骨抜きにされ、変質させられている事実の指摘。著者が接触した各地の意欲的な介護労働者たちの声が反映されている。また認知症についての理解も考えさせられた。認知症を悪者視するのではなく、そのままに受け容れよと勧めているのだ。

稲泉連『本をつくるという仕事』(ちくま文庫)現在では書物の編集もIT化によって大きく変わってしまった。最早失われそうになっている活字、活版印刷、製本、校閲などの専門家や職人たちにインタビューして、本造りの原点を確認しようとするドキュメント。友人の下町の実家が印刷屋で、活字が棚にぎっしり詰まっていた工場の光景が強く印象に残っている。

『キリストに従う 雨宮栄一牧師追悼集』(私家版)私もこの出版に多少関わっている。山梨教会、阿佐谷東教会、東駒形教会で雨宮牧師に牧会された信徒たちの証言集になっている。教会員に学び続けることを求めて、読書会を自ら指導した姿が彷彿とされる。私もまた、この牧師によって育てられた一人であることを改めて感謝をもって想い起こす。(戒能信生)

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