2021年10月9日土曜日

 

牧師の日記から(338)「最近読んだ本の紹介」

M・ディベリウス & H・コンツェルマン『牧会書簡注解』(教文館)訳者の山口雅弘さんから贈られた。注解書なので通読というわけにはいかないが、序論と訳者のあとがきに目を通した。テモテ書やテトス書などの牧会書簡は、まだ自分の講解説教で取り上げたことがない。2世紀初め頃に書かれた手紙で、新約諸文書の中で最も遅い時期の成立とされている。しかし古典とも言うべきこの注解書の翻訳が出たので、これは牧会書簡にも取り組まなければならないかと考えさせられている。以前にも書いたことがあるが、牧師は新約聖書の全巻を説教し終えると、死ぬか隠退すると聞いたことがある。牧会書簡だけでなく、まだへブル書も黙示録も取り上げていない。まだ牧師としての仕事がもうしばらく続くということか。

杉本智俊『新約聖書の考古学』(河出書房新社)前著『旧約聖書の考古学』に続いて新約編が出たので目を通した。考古学的な写真が満載で楽しいが、私にはちょっと文字が小さすぎる。牧師は聖書の各文書を通して福音を語ることを常としているので、考古学的な観点が見落とされがちになる。この本で改めて教えられたのは、ヘロデ大王によって建設された港湾都市カイサリアのローマ風の建築や、ガリラヤ周辺で発掘されたシナゴグの遺構。2000年昔の出来事を見てきたように話すためには、このような考古学的なアプローチも欠かせないと感じさせられた。

養老孟司・中川恵一『養老先生、病院に行く』(X-knowledge)医学部解剖学教室の教授であった養老さんは、医者嫌いで知られている。それが、具合が悪くなって26年ぶりに東大病院で検査を受けることになる。教え子の中川医師によって心筋梗塞が発見され、ステント治療を受ける。危なかったのだ。その顛末を、主治医との共著で明らかにしている。中でも興味深かったのは、中川医師が、がん検診の必要を説きながら、但し甲状腺癌と前立腺癌は見つけなくてもいいと言明していること。つまりこれらの癌は、致死率が低いにもかかわらず、検査技術が上がって、必要ない人にまで過剰治療をしているというのだ。当方は2年前に前立腺癌の手術を受けており、今さらそんなことを言われてもという気になってしまうが…。

阿部志郎『福祉に生きる君へ』(燦陽出版社)日本聖書神学校の受講生から頂いて目を通した。キリスト教社会福祉の世界では、神さまの次に尊敬されている?阿部志郎先生の講演を集めたもので、いつもながら感銘深く読まされた。中でも岡山孤児院の石井十次に関する示唆が参考になる。今年で96歳になる阿部先生の薫陶を受けて社会福祉の道に進んだ人は多く、その人々の歩みも紹介されている。以前仕えていた東駒形教会で、何度か阿部先生に来ていただいて、職員研修のための講演をしていただいた。まるで牧師のような語り口で(父上が、戦前のメソヂスト教会の監督として知られる阿部義宗牧師)、原稿も見ずに分かりやすく、そして実に明晰に語られるその口調を思い出した。(戒能信生)

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