2024年8月17日土曜日

 

 牧師の日記から(482)「最近読んだ本の紹介」

山田重郎『アッシリア』(ちくま新書)古代アッシリアは、旧約聖書と密接な関係にあった。北王国イスラエルを滅ぼしたのも、南王国ユダに圧力をかけ、エルサレムを包囲して落城寸前に追い込んだのもアッシリアだった。その関連で旧約聖書にはアッシリアとその王たちについての記述が頻出する。紀元前6世紀から7世紀の時代、アッシリアは中東において圧倒的な軍事力を誇り、エジプトをも併呑して最古の世界帝国を築いたとされる。しかしその最盛期に、属国であったバビロニアに滅ぼされ、瞬く間に歴史から消えてしまった。幻の古代帝国と言われる所以である。長くその存在については、旧約聖書とギリシアの歴史家ヘロドトスの証言による以外に知ることができなかった。ようやく近代になってフランスを初めヨーロッパ各国による発掘調査によって遺跡が確認され、さらに粘土板に刻まれた膨大な楔形文字資料の解読によって、古代アッシリアの歴史とその支配の実相が次第に明らかにされてきた。日本語で読める参考文献が限られる中で、本書はその全体像をコンパクトに紹介してくれる。一読して、これほどの強大な軍事力を誇った巨大帝国が、度重なる王位継承をめぐる混乱によって、言わば内部崩壊に近い仕方で自滅した事実に驚く。強大な軍事力と高度な文明を誇ったが、旧約聖書の宗教思想と比べてその思想の貧弱さは覆うべくもない。そこが不思議と言えば不思議。

和田誠『わたくし大画報』(ポプラ社)緑内障・白内障の手術後、左右の視力のバランスが取れない状態が続いている。それもあってイラスト入りの大きな字の本はないかという注文に、羊子が出してくれた。イラストレーターの和田誠さんが、新婚時代から男の子が二人誕生した前後の時期の和田家の事情、子育ての苦労、好きな映画の話、本業のイラストや装幀の仕事などを自由に綴った一冊。奥方は言うまでもなく平野レミさんで、その破天荒なユニークさが、夫の視点から描かれているのが興味深い。暑さを忘れて楽しめるお勧めの一冊。

朝井リョウ、他『一日10分のしあわせ』(NHK国際放送が選んだ日本の名作)➀~④(双葉文庫)私の読書傾向には明らかな欠落がある。例えば、自分より若い世代の作家が書いた小説はほとんど読んでいない。また女性作家の作品も苦手。そういう穴を埋めることが出来そうな本を新聞の書評欄で見つけた。NHK World Japanのラジオ放送で、英語など17言語に翻訳されて朗読されたショート・ストーリーの日本語版。文庫本一冊に8人ずつの作家たちの短編が収録されている。そのほとんどが当然ながら私よりも若い作家、しかも女性が圧倒的に多い。一冊500円と安価で、寝床で読むのに最適。(戒能信生)

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