2024年8月31日土曜日

 

牧師の日記から(484)「最近読んだ本の紹介」

谷川俊太郎・尾崎真理子『詩人なんて呼ばれて』(新潮文庫)尾崎真理子さんは、読売新聞の元・記者で、これまでにも『ひみつの王国 評伝石井桃子』、大江健三郎との共著『作家自身を語る』などを、この欄で紹介している。綿密な調査と丁寧なインタビューで知られる。その尾崎さんが、今回は詩人・谷川俊太郎の膨大な作品と生涯を取材し、何年もにわたるロング・インタビューを重ねてまとめた共著。谷川俊太郎の両親のことから、その三度にわたる結婚とその破綻に至るまで、プライベートな私生活にも分け入ってその生涯を追い、その稀有な作品群がどのように生み出されていったかを徹底して追跡している。結果として、この国の戦後詩の歴史を総覧し、その中での谷川俊太郎の独自の位置とその歩みを跡付けてくれる。中でも興味を引かれたのは、谷川が、社会や政治の動向に添いながら、徹底してデタッチメントを貫いている姿勢について、村上春樹と共通するものがあるという指摘。意表を突かれる指摘で、考えさせられた。しかし何より、谷川の詩を、その詩の生まれた時代状況の中で味わうことが出来る。

和田誠『ことばの波止場』(中公文庫)このところ、羊子に勧められて和田誠さんの本を次々に楽しんでいる。この文庫は、落合恵子さんのクレヨンハウスのセミナーで、和田誠が言葉遊びについて、自分史を絡めて講演した内容を一冊にまとめている。これがなかなか秀逸で、日本語の面白さをいろいろな角度から、楽しく分りやすく説明してくれる。例えば「しりとり」「替え歌」「折句」「アナグラム」「回文」「韻」などについて、和田さんの自作を紹介しながら説明してくれる。和田さんは、イラストレイターが本職だが、本の装丁や作詞、マザーグースなどの訳詞もしており、その多才ぶりは驚くばかり。

和田誠『銀座界隈ドキドキの日々』(文春文庫)和田誠が、多摩美術大学を卒業後、銀座に事務所のあったデザイン会社ライト・パブリシティーに入社してから、イラストレイターとして独立して青山に事務所を構えるまでの約10年間の仕事や交友を紹介している。結果として1960年代のこの国の商業デザイン業界の様子、また才能あるデザイナーや写真家、音楽家たちが刺激し合い、競って仕事をしている群像がイキイキと描かれる。有名なタウン誌『銀座百点』に連載されたもので、その当時の和田さんの描いたポスターや、イラストを楽しむことも出来る。私自身が大学生として東京に出て来たのは1960年代の終りで、和田さんたちが銀座を闊歩していたのとすれ違いだったことになる。ちょっと残念!(戒能信生)

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