2024年8月24日土曜日

 

 牧師の日記から(483)「最近読んだ本の紹介」

毎日新聞出版編『わたしのベスト3』(毎日新聞社)これも羊子に出してもらった和田誠のイラスト入りの一冊。『毎日新聞』書評欄のコラムで、著名な作家たちが自分の押す「ベスト3」を紹介していた。丸谷才一の企画で、和田誠が卓抜なイラストを添えている。例えば、養老孟司がディック・フランシス(イギリス王室の元お抱えジョッキーが書いた競馬ミステリー・シリーズ)を上げ、吉村昭が丹羽文雄を、漫才師の太田光が太宰治を、内田樹が村上春樹を、加藤典洋が小川洋子を、伊集院静が海老沢泰久を上げるという具合。その意外さと、その理由が短く述べられていて興味深い。自分なら誰の三冊を上げるかと思わず考えさせられる。ちょっと捻ったユニークな書評。

林順治『日本古代史講座 天皇・アマテラス・エミシを語る』(えにし書房)北支区常任委員会の書記を長く担われた林節子さんのお連れ合いが、三一書房の編集者だったということは聞いていた。その林さんが、近年古代史研究に打ち込んでおられ、その講演を収録した一冊を送って下さったので一読。私は日本の古代史には疎く、『古事記』も『日本書紀』も通読したことがない。したがって記紀神話について不案内なのだが、これまで通説とされて来た萬世一系神話や皇国史観とは全く異なる観点から記紀神話を読み解く可能性を示唆された。著者は、石渡信一郎という在野の古代史研究者の仮説に依拠しながら、それに独自の視点を加えて、天皇家の祖先が朝鮮系であること、藤原不比等による記紀編纂事業そのものが不都合な真実を隠すためであったことなどを主張する。宮内庁が、頑なに天皇陵とされる古墳の発掘調査を認めないのも、そこに理由があるとされる。戦前であれば確実に不敬罪で一発アウトになるところだろうが、このような観点はずっと以前から民衆の間に脈々と流れてきたという。

川上直哉「物語の中の慶長遣欧使節」『東北切支丹探訪』(仙台白百合女子大カトリック研究所)石巻栄光教会の川上直哉牧師から送られたので目を通した。仙台及び東北地方には、切支丹遺跡や伝承が数多く伝えられている。川上さんが取り上げたのは、伊達政宗がメキシコ経由でローマに派遣した慶長遣欧使節をめぐる物語。小説や戯曲、オペラ、漫画にまで取り上げられているという。使節団の代表支倉常長を主人公とする小説だけでも、木下杢太郎、遠藤周作、今東光、城山三郎、長部日出雄などが書いている。そこに描かれた常長像には「白い常永」と「黒い常永」の両者があるが、その錯綜を「キリストの噂が絶えないために」解きほぐしていく必要を説く。(戒能信生)

 

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