牧師の日記から(569)「最近読んだ本の紹介」
朝井リョウ『イン・ザ・メガチャーチ』(日本経済新聞社)2025年度の本屋大賞受賞作で話題の一冊。表題がアメリカ福音派のメガチャーチを連想させるので手にした。ところが内容は、現代日本の若者たちの内面と心象を抉り出す意欲的な小説だった。但し、スマホやSNSに馴染みのない者には、分からない若者言葉のオンパレード。「エゴサ」(エゴ・サーチ=Web上で自分がどのように評価されているかを検索すること)、以下説明は省略するが、「ハッシュ・タグ」「タグ・イベ」「スクショ」「アクスタ」といった独特の用語が続々と炸裂し、年寄りの読者を落ち込ませる。しかし我慢して読み進めていくと、現代社会で行き場を見失った若者が、新人芸能人の「押し活」(自分が大好きなキャラクターを様々な形で応援する活動)に動員されていく実態が炙り出される。率直に言って、読んでいてつらくなるような心理描写に辟易させられるが、ある意味では現代社会の病理を見事に突き出しているとも言える。しかもそれがアメリカのトランプ現象や各国のポピュリズムと重ね合わせて読者に考えさせる意味が込められている。
川平朝清・ジョン・カビラ『沖縄を語りつぐ』(岩波新書)著者の川平朝清は現在99歳、琉球王国重臣の家系に生まれ、台湾で育ち、戦後沖縄に帰ってアメリカに留学、特に沖縄放送業界の創立を担ったエリートの一人。クリスチャンで、沖縄キリスト教団と日本基督教団との合同に際して重要な役割を担った人。息子たちがサッカー番組の解説などで知られるが、その川平家のファミリー・ストーリーから戦後の沖縄の現実が語られる。つまり政治的な立場と関わりなく、圧倒的な米軍基地が存在する沖縄の歴史と実際が率直に語られる。辺野古基地建設の問題や知事選挙で何かと話題になっている沖縄の課題を改めて考えさせられた。
村木厚子『おどろきの刑事司法』(講談社現代新書)厚生労働省の女性キャリア官僚だった著者が、突然逮捕・起訴されるが、裁判で無罪が証明され、全くの冤罪であることが判明した「郵政不正事件」。その村木さんが、法制審議会の委員として、刑事司法制度の改革に取り組む。取り調べの可視化などの提案をするが、「検事司法の厚い壁」によって中途半端に終わる。その経験からご自身の事件も含め冤罪事件を例に挙げて司法改革への具体的なの提言をしている。(戒能信生)
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