2019年3月26日火曜日


牧師の日記から(207)「最近読んだ本の紹介」

半藤一利編・解説『なぜ必敗の戦争を始めたのか 陸軍エリート将校反省会議』(文春新書)1970年代に雑誌『偕行』に連載された日本陸軍中枢部のエリートたちによる座談会「大東亜戦争の開戦の経緯」を、解説付きで復刻したもの。親英米派の海軍は戦争に消極的だったのに、陸軍が暴走したという通説に反論する目的で、陸軍側からの言い分を開陳したもの。確かに単純な「海軍善玉論」は通用せず、海軍もまた見込みのない戦争に突き進んだ実情が読み取れる。しかしいずれにしろ職業軍人、それもかなりのエリートたちの日米開戦についての認識はこんなものでしかなかったことがよく分かった。そこには、言わば戦術論しかなく(それもはなはだ楽観的でお粗末な見通し)、外交や世界の情勢分析に全く疎い実情が浮かび上がってくる。何しろ日独伊三国同盟によって、ドイツがイギリスに勝利してイギリス本土を占領することが前提で開戦したというのだ。それにしても、この座談会に参加したかなりの人たちが、戦後の自衛隊の幹部を担っていることに驚いた。以前沖縄の平良修牧師が、「私は『自衛隊』ではなく『日本軍』と呼ぶべきだと考えている」と主張されていた意味がよく分かった。軍の本質は、戦争を準備することにあり、負けることが分かっていても、戦争に突き進むものなのだということを改めて思い知らされた。

ウィリアム・バンガード『イエズス会の歴史 上下』(中公文庫)イエズス会の全通史をコンパクトにまとめたもの。と言っても、文庫本上下合わせて1千頁をはるか超える大著で、かなりの読みでがある。私も精読したのではなく、興味のあるところを拾い読みしたに過ぎないのだが、それでも大きな収穫があった。一つは創立者イグナチウス・ロヨラの霊性についての深い理解。イエズス会の始まりは、宗教改革後のカトリック教会の頽廃の中での一種の信仰復興運動であったのだ。スペインやポルトガル、そしてフランスなどの有為な人材がイエズス会に続々と入会した事実がそれを物語っている。もう一つは、19世紀後半、イエズス会が弾圧され、活動中止に追い込まれている事実。南米を初め植民地に絶大な権益を誇ったイエスズス会に対する反撥が、啓蒙主義思想と重なって苦境に追い込んだのだ。明治以降の日本のカトリック宣教が、当初イエズス会ではなく、パリ外国宣教会(パリ・ミッション)によって担われた背景を初めて理解することができた。しかしフランス革命後のカトリック教会の危機の中で、イエズス会は復興し、再び活動を開始して現在に至っている。

油井大三郎『平和を我らに 越境するベトナム反戦の声』(岩波書店)昨年、日本基督教団とベトナム反戦運動との関係資料を提供したことがあって、著者から寄贈された。ベトナム戦争はアメリカが初めて敗れた戦争であった。それもアメリカの内部から反戦運動が起こり、粘り強く継続されたからだった。その歴史的体験は、その後の世界に大きなインパクトを与えている。しかし日本の平和運動は、政党や左翼諸セクトも含めて、そこから学んでいない。(戒能信生)

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